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厚生年金の「106万円の壁」が廃止される件について詳しく解説

厚生年金の「106万円の壁」が廃止される件について詳しく解説

厚生労働省は、パートタイム労働者の厚生年金加入条件としての「106万円の壁」を撤廃する案を発表しました。これは、一定の収入を超えた人が厚生年金に加入するよう求めるものです。

年収条件の撤廃により、多くのパート労働者が厚生年金に加入することになりますが、この変更にはいくつかの課題が存在します。以下に分かりやすく解説します。

1. 手取り収入が減る懸念

多くの報道では、「厚生年金に加入すれば将来の年金額が増える」と強調していますが、厚生年金の保険料は、従業員が半分を負担し、残り半分を国家が負担します。これにより、労働者の手取り収入が減少する可能性があります。

2. 企業の負担増

パートタイム労働者が厚生年金に加入すると、企業も保険料を負担しなければならず、人件費が増加します。その結果、企業が従業員の賃上げに使える予算が減り、賃金の伸びが抑えられる懸念があります。

3. 健康保険の負担増

年収130万円以下で働くパート労働者は、扶養として健康保険に無料で加入していますが、厚生年金に加入すると保険料負担が生じます。このため、以前は無料で受けられた健康保険のサービスが有料になります。

4. 労働時間調整の増加

週20時間未満の労働者は社会保険に加入しなくてよい」という条件は残されているため、労働者が手取りを減らさないために、労働時間を抑えようとする動きが増えると予想されます。

これは、人手不足の解消という政府の目標に逆行する恐れがあります。

5. 無保険リスクの増加

「130万円の壁」を撤廃すると、厚生年金に加入しない場合でも、国民年金や国民健康保険への加入が義務づけられます。しかし、国民健康保険の保険料は企業が負担する分がないため、特に低所得者には負担が重く、無保険状態や生活困窮に陥るリスクが高まります。

6. 社会保険料徴収の実効性

すべての中小企業に社会保険料の納付を義務づけても、現実的には実行が難しい場合があります。徴収体制の強化には、税務署と社会保険事務所を統合した「歳入庁」の設立が必要になるかもしれません。

7. 制度の公平性

現在の日本の社会保険制度は、さまざまな要素で不公平が生じやすい仕組みになっています。例えば、配偶者がいる第3号被保険者の制度を廃止し、年金を個人単位で管理する北欧型の制度にするなど、大幅な改革が必要とされています。

このように、年収条件撤廃案には多くの課題があり、実施に向けて慎重な検討が求められます。

年収106万円で厚生年金と健康保険に加入するとどうなる?

年収106万円で厚生年金と健康保険に加入すると、年間約15万円の保険料負担が発生します。例えば、年収117万円で厚生年金に20年間加入した場合、国民年金のみに比べて将来受け取る年金額が年間12万円増えるとします。この場合、以下のような損得が考えられます。

<計算の比較例>
– 年間保険料負担:15万円
– 20年間の総負担額:15万円 × 20年 = 300万円
– 年金増額:年間12万円
– 増額分の合計(65歳から20年受給の場合):12万円 × 20年 = 240万円

この計算だと、20年間の負担額(300万円)に対して、受け取る年金増額の合計(240万円)が少なく、社保に加入すると65歳からの年金受給では元が取れないことになります。

仮に平均寿命を超えて長生きした場合は年金増額の恩恵を受けやすくなりますが、平均寿命前後で寿命が尽きる場合には元本割れのリスクが高いです。

現役時代の手取り収入が減る影響もあり、将来の年金増額が大きくなければ、かえって家計に負担がかかる可能性もあります。

このように、短期的な収入の減少と長期的な年金増額のバランスを慎重に考える必要があり、加入することが必ずしも「得」になるとは限らないのが現実です。