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ソーシャルメディアに蔓延する模倣的欲望を理解しよう

ソーシャルメディアに蔓延する模倣的欲望を理解しよう

Facebook (現Meta) の初期投資家であるピーター・ティールは、ミメーシスの考え方に深く影響を受けていたことが知られている。このことは、ルーク・バージス氏の著書『欲望の見つけ方: お金・恋愛・キャリア』でも語られている。

伝説の起業家ピーター・ティールも、ミメーシスの考え方に深く影響を受けた

【選書】欲望の見つけ方: お金・恋愛・キャリア

この本の中で、フェイスブックの初期投資家であるピーター・ティールは、ミメーシス (模倣) の考え方に深く影響を受けていた。彼がフェイスブックに初めて投資したのは2004年頃で、まだフェイスブックが始まったばかりで、一部の大学キャンパスに限られていた頃だった。

スタンフォード大学でフランス出身の文芸批評家ルネ・ジラールに師事したティールは、ミメーシスの力を理解していた。友人がフェイスブックを利用していると、自分も利用したくなり、模倣のサイクルが生まれるのだ。この本のための対談でティールは、模倣の力を信じているからこそフェイスブックに賭けたのだと語った。「良くも悪くも、これは非常に模倣的なものになるとわかっていたので、私は模倣に賭けたのです。

ピーター・ティール、真に偉大な知識人ルネ・ジラールから受けた影響について話す

ソーシャルメディアは模倣の欲望で満ち溢れている

それ以来、複数のソーシャルメディア・プラットフォームが登場したが、なかでも TikTok は最も模倣的なものとして際立っている。TikTok は模倣を前提に運営されており、ユーザーはダンスの動きを真似たり、流行の音楽に乗ったり、人気のトレンドを追いかけたりする。

TikTok の成功にはアルゴリズム的な側面もあるが、最も人間的な要素、つまり人間本来の模倣的な性質がより重要な役割を果たしている。

私たちはしばしば、このようなプラットフォームの成功をそのテクノロジーに帰結させるが、模倣に向かう人間の深い傾向を認識することが不可欠だ。

インスタグラムも模倣によって駆動されている

インスタグラムもまた、このコンセプトで成功している強力なプラットフォームであり、すぐに衰退することはないだろう。みなさんも認識していないだけで、身をもって体験したことがあるはずです。

好きなアーティスト、アイドルが身につけていたアイテムをインスタで見て、それと同じ商品が欲しいとネットで店舗へ買いに走るような現象。しかし多くの人はアーティストが身につけていたアイテムを購入することができず、それでも欲しいという人は、転売された割高なアイテム買うしかないというお決まりのパターンである。

しかし時が経てば、アーティストが身につけていたアイテムは補充され普通に買えるようになる。でもその頃には、また違うアイテムに人気が移り変わっているのだ。そのことに気付かず、好きなアーティストが身につけていた、という模倣的欲望だけで買物をしていては、次から次への振り回されるのが関の山だろう。

このように、これらのプラットフォームが及ぼす影響力の大きさを理解することは極めて重要だ。ソーシャルメディアのプラットフォームの力は計り知れないものであり、それを使いこなすための第一歩は、私たちが様々なモデルからどのような影響を受けているかを自覚することが必要だ。

多くの人が無意識のうちに模倣的な欲望の奴隷となっている

これらのプラットフォームを利用する何十億もの人々について考えてみよう。彼らと個別に話をすれば、特にアメリカでは、その多くがいかに自分が激しく独立し、自律しているかを強調し、個人の自由の重要性を強調するだろう。

しかし実際には、多くの人が無意識のうちに模倣的な欲望の奴隷となっており、意識的にこうした影響に抵抗しない限り、最低限の自立しかできていない。言わばラットレースの如く、脳死状態で振り回されている人の何と多いことだろうか。

このことに言及することは、彼らの自己認識と著しく対照的であるため、彼らを怒らせるかもしれない。自覚することが出発点ではあるが、模倣的欲望がどのように自分の人生を形作っているのか、多くの人は闇の中にいる …

怒りや暴力もソーシャルメディアの模倣によって拡散される

2023年6月にフランスで起きた暴動が大きなニュースとなり、ソーシャルネット上でも連日暴徒を化した人々が警察とやり合う模様、街や車に火を放つ映像、暴動の様子が映し出され瞬く間に拡散された。

この暴動の発端は、フランスで17歳の少年が警察官に銃で撃たれて死亡した事件をきっかけに各地で暴動が起こったとされたが、火種はもっと前にフランス政府が年金改革公布し、受給開始年齢を62歳から64歳へ引き上げたことが始まりであり、ずっと燻っていたのだ。

6月下旬に17歳の少年が警察官に射殺されたのを気に、ソーシャルメディア上に投稿される暴動の様子は誰の目から見ても増加していた。そしてこの暴力、暴動の映像が瞬時に拡散され、悪い模倣となって人々の感情に火を付け、これまで暴動に参加していなかった人たちも暴動に駆り立てることになる。

この種の怒りは非常に模倣性が高く、伝染する。一人の人間が怒ると、それは瞬く間に広がり、特に群衆の中では今回のように危険な暴徒と化す。先日アメリカで起こった、インフルエンサーを発端として若い子たちが街で好き勝手大暴れした事件があったが、正にソーシャルメディアの悪い模倣の典型的な例である。

ソーシャルメディアは良いことだけではなく、悪いことも模倣の力によって増幅させてしまうことを認識する必要がある。ソーシャルメディア上での情報の拡散は、非常に速く、広範囲にわたるため、一度火がついてしまうと、それを鎮火するのは難しくなる。

特に、感情的な出来事や暴力的な行動が映し出されると、それに共感する人々が増え、さらにその行動を模倣する人々が増えるという悪循環が生まれる。

模倣は時として群衆を大きく動かし揺さぶる

2022年、韓国のハロウィンで100人以上が亡くなる死圧事故が起きた。日本でも過去に花火大会の帰りに歩道橋でパニックになった群衆が倒れ同じような事故が起きていますが、群衆の模倣ほど危険なものはないかもしれません。

人々は、他者の行動や選択を参考にして自分の行動を決定することが多い。これは、安全な場面では良いこともありますが、緊急時や危険な状況では、模倣的な行動が大きなリスクを引き起こすことがあります。

多くの人々が一箇所に集まるイベントでは、一度パニックが起きると、それが連鎖的に広がり、大きな事故につながることがあります。特にみんなが行くから、周りが行くからなど、ミーハーで流されやすい模倣的な人間は気をつける必要があります。これらの人々は実に模倣的な人間で、周りに流されてしまっている傾向が多い。

模倣的な行動を避けるためには、自分自身の判断や意識を持つことが大切です。周りの人々の行動や選択に流されず、自分自身で情報を収集し、冷静に判断することが求められます。

有名な花火大会に若い人たちが行きたいという気持ちは理解できます。しかし、だからといってみすみす花火大会の群衆に雪崩れ込むというのは得策ではないでしょう。

花火大会の帰りは混み合って危ないということを予想し、花火の途中で離脱するとか、メイン会場から少し離れたところで花火を見るなど、群衆を避けることもできるはずだ。

私たちは模倣的な人間なので、花火大会があれば何も考えずに群衆に参加しようとする。しかし、そこには群衆が引き起こす危険性があることを、もっと理解する必要がある。

まとめ : 模倣天国日本

模倣的欲望とは、他者の欲望や行動を模倣することで自らの欲望や行動が形成される現象を指します。ルネ・ジラールのミメーシスの理論 (模倣理論) に基づいたものです。この理論によれば、人々は他者の欲望を模倣することで、競争や対立が生まれるとされています。

ルネ・ジラールの強力な理論「模倣の欲望 (ミメーシス)」について

現代のソーシャルメディアの時代において、この模倣的欲望はさらに強化されています。SNS上での「いいね」や「フォロー」、トレンドやバズワードに敏感になることなど、他者の行動や選択を参考にして自分の行動や選択を決定することが一般的になっています。

特に、アメリカのような個人主義が根付いている国でさえ、自分の選択や行動が他者に影響されているとは考えにくいかもしれません。しかし、実際には、多くの人々が他者の選択や行動に影響されて、自らの選択や行動を決定しているのです。

この模倣的欲望が強くなると、自分自身の本当の欲望や価値観を見失ってしまうことがあります。また、他者との比較や競争が強化されることで、ストレスや不安を感じることも増えてきます。

自分自身の欲望や価値観を見つめ直すこと、他者との比較から解放されることは、現代のソーシャルメディアの時代において、非常に重要なことです。模倣的欲望から解放されることで、真の自分自身を見つけ、より豊かな人生を歩むことができるでしょう。

日本のような模倣天国から抜け出すためには、ルネ・ジラールの提唱するミメーシス理論を必ず学んで下さい。

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