この表は日本における主要死因の変化を1990年、2005年、2021年の3時点で比較したデータです。特に注目すべきは認知症(アルツハイマー病や他の認知症)が2021年に初めて死因の第1位になったという点です。
日本人の「死因」、認知症が首位に 慶大など30年分解析 – 日本経済新聞
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日本人の死因構造に大きな変化が起きています。厚生労働省などの統計によると、2021年にはアルツハイマー病や他の認知症が日本人の主要死因の第1位となりました。これは日本の高齢化社会を象徴する重要な変化です。
認知症を発症し、行方不明になってしまう高齢者が社会問題になっている
実は近年、日本では認知症による高齢者の行方不明が深刻な社会問題となっています。この問題は死因統計で認知症が首位になったという現象と密接に関連しています。
警察庁の統計によると、認知症やその疑いにより行方不明になった高齢者の数は年々増加傾向にあります。2022年には約1万7000人以上の認知症関連の行方不明者が警察に届け出されており、過去最多を更新しました。
さらに懸念すべきは、発見されるまでに亡くなってしまうケースも少なくないという現実です。また数年経っても見つかっていないという事案も多いのです。
認知症に対する根本的な治療薬は、まだ存在しない …
認知症に対する根本的な治療薬がまだないことは、この問題の最も深刻な側面の一つです。現在の医学では、認知症、特にアルツハイマー病に対して「根治」できる薬はまだ開発されていません。
現在開発された既存の治療薬は主に以下のようなものがあります。
・コリンエステラーゼ阻害薬(ドネペジルなど)
症状の進行を一時的に遅らせる。
・NMDA受容体拮抗薬(メマンチンなど)
神経細胞保護を目的とした薬。
・2023年に米国で条件付き承認されたレカネマブ(商品名Leqembi)
アミロイドβを標的とした抗体薬。
しかし、これらの薬はいずれも症状を一時的に改善したり進行を遅らせたりする効果はあっても、認知症の根本原因を治療するものではありません。
薬剤開発が難しいのは、認知症、特にアルツハイマー病の発症メカニズムが完全に解明されていない点にあります。他にも、脳内での複雑な病理変化を標的にする難しさ、血液脳関門という障壁があり、薬剤が脳に到達しにくい。
新薬開発までには、膨大な時間とお金がかかるなど、症状が現れる頃には、脳内の変化が既に進行している点など、認知症の治療薬を開発するのを困難にしています。
主要死因の変遷
1990年から2021年への主な変化は以下の通りです。
– 認知症は1990年の第6位から、2005年に第4位へ、そして2021年には第1位へと急上昇
– 脳卒中は30年以上にわたり第1位を維持していましたが、2021年には第2位に後退
– 虚血性心疾患は第2位から第3位へ
– 肝硬変が死因トップ10から外れ、新たに膵臓がんと慢性閉塞性肺疾患(COPD)が登場
高齢化社会を反映する死因構造
この変化は日本の人口構造の変化、特に高齢化の進行を如実に表しています。認知症は高齢者に特に多い疾患であり、平均寿命の延伸とともに患者数が増加しています。
一方で、感染症や急性疾患による死亡は相対的に減少し、慢性疾患や加齢関連疾患が増加しています。下気道感染症は第3位から第5位へと順位を下げています。
医療技術と生活習慣の影響
死因の変化は医療技術の進歩も反映しています。かつて致命的だった疾患の治療法が改善され、脳卒中や心疾患の致死率は低下しました。しかし、認知症に対する根本的な治療法はまだ確立されていません。
また、生活習慣の変化も死因構造に影響しています。胃がんは食生活の変化や衛生状態の改善により第4位から第7位へと低下しました。一方で、大腸・直腸がんは第7位から第6位へと上昇しています。
今後の課題
認知症が死因の首位になったことは、日本社会にとって新たな健康課題が浮上したことを意味します。今後は認知症の予防、早期発見、治療法の開発がより一層重要になるでしょう。また、認知症患者とその家族を支える社会システムの整備も急務です。
この統計は、日本の医療・福祉政策が感染症対策から高齢者の慢性疾患管理へとシフトする必要性を示唆しています。特に認知症対策は、今後の日本において最重要の医療課題の一つとなるでしょう。