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ハワード・マークス、市場サイクルの本質的なメカニズム

市場サイクルの本質的なメカニズム

オークツリー・キャピタルのハワード・マークス氏は、市場サイクルのマスターとして知られており、著書『市場サイクルを極める: 勝率を高める王道の投資哲学』は多くの個人投資家に読まれています。

今回は、ハワード・マークス氏が語る、市場サイクルの本質的なメカニズムについてご紹介します。

なぜ経済にはサイクルが存在するのか?

なぜ経済にはサイクルがあるのでしょうか?経済が毎年2%成長すると予想されていても、実際にはそうならないことが多いです。その理由は、人々が過剰に反応するからです。

例えば、経済が数年間好調だと、企業は成長に対応するために新しい工場を建てます。しかし、他の企業も同じように行動するため、結果的に工場が過剰になります。これが経済のサイクルの原因です。

経済サイクルの主な原因の一つは、人々や企業の過剰反応にあります。以下で順を追って詳しく見てみましょう。

1. 人間の心理

楽観主義と悲観主義が交互に現れ、市場参加者の行動に影響を与えます。好況時には過度の楽観主義が、不況時には過度の悲観主義が生まれやすくなります。

2. 投資の遅れ

企業が需要の変化に対応するには時間がかかります。例えば、新しい工場の建設には数年かかることがあり、その間に市場環境が変化する可能性があります。

3. 政策の影響

金融政策や財政政策が経済に影響を与え、時にはサイクルを増幅させることがあります。

4. 技術革新

新技術の導入は経済に大きな影響を与え、短期的には不均衡を生み出す可能性があります。

5. 外部ショック (ブラックスワン)

自然災害、パンデミック、地政学的イベントなどの予期せぬ出来事が経済の均衡を乱すことがあります。

これらの要因が複雑に絡み合い、経済が直線的に成長するのではなく、上下動を繰り返すサイクルを生み出しています。ハワード・マークス氏の指摘する過剰生産の例は、このプロセスを理解する上で非常に有用です。

好況期には多くの企業が生産能力を拡大しますが、需要が追いつかなくなると、過剰生産が起こり、それが次の不況の種となります。

→【関連記事】ハワード・マークスから学ぶ、相場のサイクルを極める

何がサイクルを形成するのか?

貪欲と恐怖、楽観と悲観、信じやすさと懐疑心がサイクルを形成します。

1. 感情の振り子

ハワード・マークス氏が指摘するように、市場は常に極端な状態の間を行き来しています。貪欲と恐怖、楽観と悲観、信じやすさと懐疑心といった相反する感情が、まるで振り子のように揺れ動きます。

2. 過剰反応の連鎖

市場参加者は良いニュースに対して過度に楽観的になり、悪いニュースに対して過度に悲観的になる傾向があります。この過剰反応が連鎖反応を引き起こし、市場全体の動きを増幅させます。

3. 群集心理

個人の感情が集団レベルで増幅されると、強力な市場トレンドが形成されます。これは「群集心理」や「羊群効果 (他人の行動に惑わされ、自らの分析判断を軽視する傾向)」と呼ばれることもあります。

4. 自己強化サイクル

楽観的な市場では、価格上昇が更なる楽観主義を生み、それがさらなる価格上昇を引き起こします。逆も同様で、悲観的な市場では下落が加速します。

5. 極端からの反転

市場が極端な状態に達すると、反対方向への動きが始まります。これは、価格が根本的な価値から大きく乖離した時に起こりやすくなります。

6. 記憶の短さ

市場参加者は過去の教訓を忘れがちで、これが周期的なパターンの繰り返しを助長します。

7. リスク認識の変化

好況期にはリスクが過小評価され、不況期には過大評価されます。これがサイクルの振幅を大きくする一因となっています。

マークスの洞察は、市場が単純な経済的要因だけでなく、人間の心理や行動によって大きく影響を受けることを強調しています。

市場とは人々の集合体

市場は単なる数字や統計の集合ではなく、感情、希望、恐れ、そして時には非合理的な決定を持つ人間の集合体です。これが市場の複雑性と予測不可能性の根源となっています。

個々の決定が集まって市場の動きを形成します。しかし、集団の行動は個人の行動の単純な総和ではなく、しばしば予想外の結果をもたらします。ファインマンの比喩が示すように、感情は予測を極めて困難にします。

市場参加者の感情は常に変化し、時には突然の方向転換を引き起こします。人間の行動は非線形的です。小さな出来事が大きな影響を及ぼすこともあれば、大きな出来事が予想外に小さな影響しか及ぼさないこともあります。

市場参加者の行動が市場に影響を与え、その市場の動きがまた参加者の行動に影響を与えるという循環が生まれます。これがさらなる予測不可能性を生み出します。

予期せぬ出来事や、一見些細に見える要因が市場全体の方向性を大きく変える可能性があります。これは「ブラックスワン理論」とも関連しています。人間の行動の複雑さを考えると、市場を完全に数学的にモデル化することは極めて困難です。

多くの経済モデルは、この人間的要素を十分に考慮していません。