2022年8月25日に遂に株価が1ドルを割り込んだ ASTRA (アストラ / ASTR)。宇宙 SPAC の中でも若く有能とされていたCEOの Chris Kemp (クリス・ケンプ) の人気も相まって、日本でも話題となった宇宙企業が ASTRA です。
SPAC上場の当時は、周りのトレーダーでも「長期枠として何千株購入した」というような声を聞きましたし、私も長期枠として上場後に10ドルぐらいで数百株をロングしていました。SPAC 上場当時は金融相場の追い風もあり、株価はロケットのごとく上下しましたが、最終的には上場から1年半でIPO価格の90%以上を失ってしまいました。
前の記事「宇宙 SPAC 企業に冬の時代を告げる兆候」でもお伝えしましたが、Ars Technica のシニア・スペース・エディターでイーロン・マスクと SpaceX の著書『Liftoff』で知られる、Eric Berger (エリック・バーガー) さんは以下のように指摘しています。
ASTR は2022年上半期に1億6800万ドルの純損失を出した。小さな打ち上げ会社としてはかなり大きな燃焼率だ。ASTR のクリス・ケンプCEOは、同社が2023年に商業打ち上げを再開するかどうかは定かでないと述べた。次世代ロケットシステムの開発とテストがどうなるかによる。それ以降になる可能性もある。
NASAは非現実的な顧客だ。ASTR は、トロピックス・ミッションの「打ち上げシステム2.0」を待ってもいいと言った。ASTR は現在、約2億ドルの現金と市場性のある有価証券を手元に置いている。明らかに、現在の消費率は持続可能ではない。おそらく、彼らは宇宙空間でのスラスター事業 (Astra Spacecraft Engine) から十分な収益を得るでしょう。私は知らない。財務はかなり厳しそうだ。
Astra の動向については、株価が1ドルを割った日を界にソーシャルネット上でも投資家の間で議論が起っていますので、その中から一部耳を傾けておきたい議論をピックアップしてご紹介します。
宇宙経済学者でユーロスペース社リサーチ&マネージング・ディレクター Pierre Lionnet 氏の Astra に対する見解が Twitter スレッドで紹介されていますので翻訳します。
The clock starts ticking for @Astra, whose trading value has dropped below 1$ since August 25th. If the stock trades durably (30 days) below 1$ it will be delisted. The stock has lost >90% of its IPO value in 18 months… https://t.co/7EwF9xG3ZT https://t.co/mbgpPdcZyW 1/ pic.twitter.com/hT8D0867ar
— Pierre Lionnet (@LionnetPierre) August 27, 2022
8月25日以降、売買代金が1$を割り込んだ Astra の時計の針が動き出した。もし1ドル以下の取引が継続(30日間)すれば、上場廃止となる。1年半でIPO価格の90%以上を失ってしまった…。
私は、Astra の異常な収益予測、怪しいコミュニケーション、(参照リンク) そしてトップマネジメントが過去の経験や職歴を創造的に表現していたことから、常に「懐疑的」であった。
Astra のCEO Chris Kemp (クリス・ケンプ) は、元「NASAのCTO」であり、「IT担当のCTO」(つまり「コンピュータとネットワークの人」)であったという重要な情報を省略し、自分自身のスタイルを維持し続けているのは不愉快ではないだろうか?FCC出願書類、Astra web、NASAブログからの抜粋をご覧ください。嘘でないなら、誇張である。
2022年第2四半期のアップデートによると、2022年には50M$/四半期という超高速で現金を流出するにもかかわらず、Astra は200M$のキャッシュ・プラスを維持している。
2022年第2四半期の決算報告の中で、同社は “Rocket 3.3” の早期引退 (一連の失敗の後) と、5M$/600kg (または8.3k$/kg) と発表した、より大きな(「改良型」) “Rocket 4.0” への移行も発表している。
私は、8k$/kg (最高の価格性能) では、いかなる打ち上げサービスにも大量(「ハイパースケール」)市場の可能性はないと考えています。なぜなら、LEOコンステレーションのビジネスケースは、そのような価格では成り立たないからです。
さらに、OneWeb と Amazon がその展開に大型ロケットを選択したことは、Astra が主張しようとも、小型ロケット市場がメガコンステレーションによって維持されることはないことを裏付けている。
わずか1年前、DeutscheBank のアナリストである Edison Yu は、Astra を$8.9で買い、$13を目標にするよう勧めた。今日、彼はこの推奨についてどう考えているのだろう。こういうアナリストは、自分のアドバイスに対して責任を問われることはないのだろうか?
興味深いことに、Astra のCEO Chris Kemp は数日前に1.25$で10万株を買っている。彼はまだこの会社を信じているのだろうか、それともわずかなリバウンドを期待して株を買い占めているのだろうか?それが安心材料なのか心配材料なのか、私には判断がつきません。私の考えでは、125k$では信任されたとは言い難い。
また、1億ドルの普通株購入契約の発表がありましたが、これは会社がすぐに現金が手に入らないことを恐れていることを示唆しているのでしょうか?しかし、株価があまりに低い場合、それはまだ続くのだろうか?
Pointed out a couple of months ago dilution for @Astra shareholders was coming very soon, it seems to have begun:https://t.co/4o0M3YRD6Z$ASTR currently has a market cap. ~$400m, but the $100m share offering deal doesn't necessarily mean 25% dilution, here's why: 👇
— Alaric's Picks (@AlaricsPicks) August 2, 2022
数ヶ月前に Astra の株主の希薄化が近いと指摘した。株主への希薄化がもうすぐ始まると指摘していたが、それが始まったようだ。現在 $ASTR の時価総額は ~$4億だが、$1億の株式公募案件は必ずしも25%の希薄化を意味しない、その理由は以下の通りだ。👇
Reddit のハードコアなファン層でさえ希望を失いつつある。(以下が Reddit で交わされている Astra の議論)
Astra が成功しないと思う実際の理由をお聞かせください。
このような場合、「このままではダメだ」と思っている人がどれだけいるのか、また、「株価が下がったから」と感情的になって変なことを言い出す人がどれだけいるのか、見てみたいものです。私は、正論とゴミを比較する集計を行いたい- GO!
宇宙経済学者の Pierre Lionnet 氏は最後に以下のように締めくくっている。
今後30日間で、Astra の物語の次の章が決まる。最終的に上場廃止になれば、Astra には大きな変化の余地があるはずだ(買収のチャンスもあるかも?)
ニューヨーク証取の上場規定では、終値で1ドル割れの株価水準が30日連続し、6カ月以内に上場基準を回復できなければ上場廃止となる。
Astra が見直される局面はあるか?
2022年9月1日、CNBCの独占記事で、元NASA長官 Jim Bridenstine が、地政学的なサプライチェーンの脅威の中、小型衛星用の次世代電動スラスタを開発する新興企業 Phase Four の役員に就任したことが伝えられた。この記事に対して、Space Case 氏の話によると、Astra が2021年に買収した Apollo Fusion エンジン、現在は Astra Spacecraft Engine (アストラ宇宙船用エンジン) として知られるを持ち出し、以下のように述べている。
This endorsement of electric sat thrusters as a “game changing tech” makes me want to learn more about the Apollo Fusion engines (now known as @Astra Spacecraft engines)$ASTR has seen some momentum selling these engines as of late, w Airbus OneWeb+LeoStella being notable buyers https://t.co/He0eLwYI0A
— Space Case (🛰,📈) (@spacecasetayl0r) September 1, 2022
このように、電気衛星スラスタを「ゲームを変える技術」として支持することで、私は Apollo Fusion (アポロフュージョン) エンジン (現在は Astra Spacecraft Engine として知られている) についてもっと知りたいと思うようになったのです。
Astra は、最近、このエンジンの販売に勢いがあり、Airbus OneWeb Satellites と LeoStella が注目すべき購入者です。
偶然にもこの日 (2022年9月1日)、Astra は新しいエンジンを試していることをツイートし、ハッシュタグ #AdAstra と共にエンジンを燃やす動画をツイートしている。
Testing engines for our new launch system. #AdAstra pic.twitter.com/chHRvfinDo
— Astra (@Astra) September 1, 2022
Astra Spacecraft Engine (アストラ宇宙船用エンジン) とは?
Astra Spacecraft Engine (アストラ宇宙船用エンジン) とは、飛行実績のある星座のための電気推進システム。Astra Spacecraft Engine™️ (ASE) & Astra Spacecraft Engine Max (ASE Max) は、複数のスラスタと PPU を構成して、最小の地球観測衛星から数キロワットの太陽光発電を備えた大型通信衛星まで、さまざまなミッションに対応することができます。各システムは完全に統合されて納入され、軌道上での信頼性を向上させながら、宇宙船開発の複雑さを軽減するためにテストされています。
Astra が見直される局面はあるか?
以上のように、Astra がロケットの打上げ以外に電気推進エンジン (電気推進は宇宙空間で用いられるロケットエンジンシステムの一種) Astra Spacecraft Engine にもっと需要が集まれば、打上げ以外にも稼ぎまっせ!ということで、見直される機会があるのかもしれません。
先日 Astra が「Airbus OneWeb Satellites と宇宙機用エンジン契約」というニュースがありましたが、今年4月には LeoStella と電気推進システム契約を発表しています。
Astra は連続した打上げの失敗、打上げシステムのアップデートのために2023年以降まで商業打上げが未定となっていることから株価は叩き売り状態にありますが、目先の相場が底入れし、このエンジンが見直される機会があれば、また Astra の株が買われる局面もあるのかもしれません。
Nasdaq が Astra に上場廃止の警告を与える
Nasdaq gives Astra $ASTR a delisting warning:
Due to being under $1, the company disclosed in a securities filing that Nasdaq said Astra has until April 2023 to get the stock back above that mark for 10 consecutive business days.
More via @saracsalinas: https://t.co/qA5CJdRhSN pic.twitter.com/tdoOjYSAeg
— Michael Sheetz (@thesheetztweetz) October 7, 2022
遂に Nasdaq (ナスダック) が2022年10月6日、Astra (アストラ / ASTR) に上場廃止の警告を受ける。
1ドルを下回っているため、Nasdaq は Astra が2023年4月までに、10営業日連続でそのマークより上に株価を戻す必要があると証券取引所に提出したことを明らかにしました。CNBCの記事によると、
株価が30日連続で1ドルを下回ったため、ナスダックから上場廃止の警告を受けたと発表した。規制当局への提出書類によると、同社は180日以内に株価を引き上げなければ上場廃止の憂き目にあうという。同社は四半期ごとに赤字が続き、8月には今年いっぱいのフライトを休止すると発表している。 – CNBC
と伝えており、当初よりこちらでお伝えしていたことが現実となってしまいました。大局観的に相場を見ると、この辺でインフレが鈍化し、これ以上金利があがらなければ相場は底入れし、長期で見れば Astra のような株にもフォローの風が吹くかもしれません。
ちなみに、Astra の他にも多くの SPAC 銘柄が1ドルを割り込み、ナスダックから上場廃止の通告を受けています。携帯ショップ運営の Enjoy Technology、中古車市場の CarLotz、バイオテクノロジー企業の Clarus Therapeutics などです。
これらの企業は、30営業日連続で株価が1ドルを下回ると、通知を受け取ります。その後、180日間の猶予があり、その間に株価が少なくとも10営業日連続して1ドルを上回れば、コンプライアンスを回復することができます。