バイオテクノロジー企業への投資を数十年以上続ける個人投資家、Pharmdca さんのバイオ投資の投資ストラテジーをご紹介します。私が Pharmdca さんを知ったのは、2020年の COVID による金融相場のタイミングでした。
2023年12月現在、株式相場はFRBの利上げが完了したかのように伺え、金利もそれに反応するように急騰から一点して下落しています。それに最も反応したのが、2023年年初より最もパフォーマンスの悪いバイオセクターでした。
12月には怒涛の買い戻し、2023年の大ブームになった肥満薬 GLP-1、大手製薬会社によるバイオ企業の活発なM&Aなど、バイオセクターにようやくフォローの風が吹いています。今回は、Pharmdca さんによるバイオ投資ストラテジーと +α なバイオ投資戦略をご紹介します。
2024 resolutions-
Biotechs
1) Be more Selective
2) Pay attention to the management
3) Minimize positions and size after ASCO
4) Buyback in October
5) Nothing more important than your DD.
5) Create your own strategy, don’t be a blind follower. Cut noise
6) There’s no shame…— Pharmdca (@Pharmdca) December 26, 2023
バイオテクノロジー投資の哲学
1. より選択的になる
どのバイオ企業が優位にあるのか?臨床フェーズやバイオ分野のトレンドに合わせて、有望なバイオ企業を選択します。例えば、近年オンコロジーの領域は新薬の開発が活発で、癌治療の分野で注目されている「抗体薬物複合体 (ADC)」の技術は大きなトレンドとなっています。
ADC の技術には、昨今バイオ企業の巨人である、Pfizer (ファイザー / PFE)、AstraZeneca (アストラゼネカ / AZN)、Gilead (ギリアド / GILD)、Bristol Myers (ブリストル・マイヤーズ / BMY)、Eli Lilly (イーライリリー / LLY)、Merck (メルク / MRK) などが続々と参入しています。
また、未来に目を向ければ生成AIの革命により、創薬AIや、NVIDIA のCEOジェンスン・ファン氏が熱く語るように、次は合成生物学の分野で革命が起こると期待されています。
2. 経営陣に注目する
これは、ウィル・ソーンダイク氏の著書『The Outsiders (破天荒な経営者たち)』に代表されるよに、経営陣が優れていることが一つのキーになると思います。
例えば、Arcellx (アーセルクス) という CAR-T 分野のバイオ企業には、元FDA長官のスコット・ゴットリーブ氏も役員なのか、関与しているという噂があり、同社は上場後も右肩上がりの株価を形成しています。
PDSバイオテクノロジーは、新たに CMO にバイオ業界で豊富な経歴を持つ Dr. Kirk Shepherd を迎えたことで、株価が見直され上昇するということがありました。
他にも、買収の噂があり、良い感じに株価が推移していたバイオ企業が、突然会社の主要メンバーが辞任することが発表されたりします。これは一見悪いことのように受け取る人も多いと思いますが、買収の兆候とも捉えることができるのです。
過去にもこのようなことが何度となく繰り返されており、その企業は買収されています。
3. ASCO 後にポジションとサイズを最小化する
ASCO (American Society of Clinical Oncology) とは、アメリカ臨床腫瘍学会のことで、その年の年次総会が6月上旬に開催されます。このイベントは、バイオ投資家にとってカタリストとなるもので、このイベントで新しい材料やデータが出てくることが期待できます。
Pharmdca さんは、このイベントの後で、ポジションとサイズを最小化すると述べています。
市場が注目するバイオテクノロジー・イベントが1年を通して開催されます。年始の1月にはJPモルガンヘルスケアカンファレンスが開催されます。私の記憶では、2023年1月の同イベントでは、利上げ途中ということもあり、バイオ株はこのイベントに反応していなかったように感じます。
一方、2024年1月のJPモルガンヘルスケアカンファレンス期間は、バイオ指数は上昇し、ブロックバスターによる臨床バイオ企業のM&Aの発表も何件かありました。正確には、2023年12月にバイオセクターは急騰し、その流れを受けて翌年1月のJPモルガンヘルスケアカンファレンスに向けて上昇し続けたものだと思います。
特に注目されているバイオテクノロジー・イベントが、1月の「JPモルガンヘルスケアカンファレンス」と6月の「ASCO (アメリカ臨床腫瘍学会)」です。実際にバイオテクノロジー・セクター「XBI」の上昇は、1月か6月、または年末 (株価が上がるやすい月) に最も上昇しているというデータがあります。
Note all the $XBI gains are either
A) During JPM season – Jan-Jun
-or-
B) During end of year rush – Nov-Dec pic.twitter.com/bre8qZOOJv
— BowTiedBiotech 🧪🔬🧬 (@BowTiedBiotech) January 12, 2024
Pharmdca さんは、この流れを読みバイオテクノロジー・イベントの「ASCO」後に、材料切れ、相場のアノマリーとして悪い8月、9月を意識してのことだと思います。
4. 10月に買い戻す
これは米国投資のアノマリーで、夏以降に相場が荒れるため (1950年以降、8月、9月の株式パフォーマンスが1年間の中で最も悪いことが知られている)、下げたタイミングの10月に買い戻すという意味です。そして年末の株高に向けて、このタイミングで買戻しや仕込んでいくものだと思います。
5. DDより重要なものはない
DD とは、デューデリジェンスのことで、投資を行う際に、投資先の価値やリスクなどを十分に調査することを指します。DD については、バイオテクノロジーについての投資手法を学ぶこと、パイプラインの臨床データ、臨床フェーズ、カタリストをしっかりと学ぶ必要があります。
十分な調査や理解をしていないと、周りの情報に流されたり、間違った判断を下してしまうことになります。
6. 自分なりの戦略を立てる。ノイズをカットする
自分なりの戦略を立てることも大切です。私もバイオ分野に関しては、素人同然ですが、普段からバイオ関連のニュースやM&Aのディール、次に期待される分野合成生物学の勉強をしています。
私がバイオ企業に投資する際の判断材料にしている一つとして、バイオテクノロジーに精通したファンドがどのようなバイオ企業の銘柄をポートフォリオに入れているか?などを参考にしています。
ファンドは、米国証券取引委員会(SEC)に対して定期的にポートフォリオを開示します。これらの開示は、13F報告書として知られており、年に4回、各四半期の終了後45日以内に提出されることになっています。
これを利用し、バイオに精通したファンドの13F報告書を確認し、どのようなバイオ企業を買っているのか?またインサイダー買いが入ることもあるので、そのタイミングも見逃さないようにしています。
実例では、ImmunoGen (イミュノジェン / IMGN) が AbbVie (アヴィ / ABBV) に買収される前に、バイオ企業に精通した RA Capital は、ImmunoGen の株式をポートフォリオの第四位まで買い増していました。これはある種、買収が迫っていたのを予想していたのかもしれません。
6. コアポジションで利益を確定することは恥ではない
バイオ投資の伝説的な話としては、伝説の億万長者バイオトレーダー Wayne P. Rothbaum (ウェイン・P・ロスバウム) のイムブルビカの開発会社であるNLSファーマシューティクス株への投資が有名です。
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この話の結末は、ロスバウムがNLSファーマシューティクスの株を1ドルか2ドルで買って6ドルで売ったという話なのですが、最終的にNLSファーマシューティクスの株は261ドルにまで急騰したという話です。ロスバウムは誰によりも早く、イムブルビカの可能性に気付いていたのに、NLSファーマシューティクスの株を早期に売却したことは、彼のキャリアの中で最大の失敗でした。
しかし、バイオ投資はハイリスクで知られています。臨床が浅い段階で期待だけで買ってしまい、臨床結果が悪かった場合株価はすぐに半分以下に下落したりします。そのため、利確は正義というか、ロスバウムの話は誰にでも起こりうるのです。
【選書】『For Blood and Money』血と金のために億万長者、バイオテクノロジー、そしてブロックバスター薬の探求
7. 論文が変わったら、損切りして次に進む
これは良好なデータが示されていたが、新たに出たデータで結果的に悪いデータが示されたり、論文の内容が変わってしまったら、これまで抱いていた期待を捨て、損切りして次に進むことを述べています。
イナゴしてこのようなバイオ銘柄を買っている場合、「あのバイオ企業、有望だったのでは!?」というような文句が聞こえてきますが、バイオ銘柄もデータ (結果) が全てな面がありますから、悪い結果が出た場合売られます。
この代償は、失敗という経験値に変わります。この失敗を学習ツールとして利用することを Pharmdca さんは述べています。
8. 自分のコンフォートゾーンに投資する
自分のコンフォートゾーンに投資し、情熱と知識と自信のあるセクターに投資する。Pharmdca さんの場合、暗号通過は私の分野ではないので、あまり投資しないし、まったく投資しない、と述べています。
例えば、私の場合は第五次産業革命とも言われるバイオテクノロジーの分野、合成生物学に非常に興味があり、この分野で目覚ましい成長を遂げている Ginkgo Bioworks という企業に投資しながら、この分野を勉強しています。
自分が関心や興味のある分野であれば、身銭を切ってでも学ぶ価値はあると思います。
9. リスク管理とポジションサイジング
バイオ投資は非常にリスクが高いことで知られています。過度の期待から一つの銘柄に偏ってしまうと、悪い結果が出た時に一瞬で資産を失いかねません。株式投資においてリスク管理は必須ですが、バイオ投資においては一層のリスク管理が必要です。
バイオ投資の素人であれば、まずは軽いポジションから投資を始め、再現性やある程度周りが見れるようになってから、大きめのポジションを作るなどの管理が必須になります。
10. 決してあきらめない
バイオ企業の投資でも、最後に大どんでん返しで買収されて株価が2倍になる、ということは結構あります。一つの銘柄に拘ることなく、柔軟にバイオ投資を諦めないことが重要なのかもしれません。それにはとにかく学び続ける必要があると思います。