アメリカの人気ポップ歌手 Taylor Swift (テイラー・スウィフト) のコンサートチケットに関連する現象、テイラー・スウィフトというアーティストがもたらす経済を指す言葉「スウィフトノミクス」についてご紹介します。
Taylor Swift fans are learning more supply-and-demand basics than an Econ 101 textbook could ever provide ahead of her NYC concerts this weekend https://t.co/d7wK4vHgjP
— Bloomberg (@business) May 27, 2023
「スウィフトノミクス」は、人気ポップ歌手テイラー・スウィフトのコンサートチケットに関連する現象を指し、供給と需要、あるいは人気の度合いだけでは説明できない事象です。具体的には、テイラー・スウィフトの全米ツアーのチケットが前売り受け付け開始と同時に1400万人が殺到し、ウェブサイトがクラッシュするほどの状況が発生しました。
危機の時代にコンサートは手の届くぜいたく
Last night we all danced together in the rain for THE ENTIRE 3.5 HOUR SHOW in foxy Foxborough MA!! We’ve had rain shows at Gillette Stadium before but this was a full on deluge that never let up, I just want to thank that iconic crowd!! Love you so much you have no idea 💕🥰🥲 pic.twitter.com/I4WUjey94o
— Taylor Swift (@taylorswift13) May 21, 2023
これにより一般販売が停止となり、限られたチケットは転売市場で急騰しました。最低価格は4万ドル(約560万円)以上で、その異常な高額さが注目されました。ゴールドマン・サックス・グループのアナリスト、リサ・ヤング氏は、「危機の時代にコンサートは手の届くぜいたくと見なされる」と述べています。
新型コロナウイルスのパンデミックは、全世界の人々の生活に多大な影響を及ぼしました。多くの場合、社会的距離を保つことが求められ、大規模な集会やイベントが制限され、またはキャンセルされました。これにより、音楽コンサート、スポーツイベント、劇場などの体験が一時的に利用できなくなりました。
それゆえ、パンデミック後にこれらのイベントが再開されると、人々はそれらを「手の届くぜいたく」として消費します。つまり、これらの体験は一般的な生活の一部から特別なもの、または「ぜいたく」に変わりつつあります。
これは、消費者の行動と価値観が変化していることを示しています。コンサートや他のライブイベントは、人々が社会的なつながりを再構築し、一時的な逃避を提供する手段として価値が見直されています。このような体験は、特に厳しい社会的、経済的状況の中で、人々の幸福感と生活の質を高める重要な役割を果たします。
音楽産業を通した経済ロッコノミクスとは?
また、プリンストン大学の政治経済学教授だった故アラン・クルーガー氏は、音楽産業を通した経済を「Rockonomics (ロッコノミクス)」というコンセプトで分析し、スウィフトを「経済学の天才」と称賛していました。これは彼女が16歳の若さでデビューし、コンサートと商品の売り上げを両方伸ばす戦略を駆使したことによる評価です。
ロッコノミクスは、経済学者であり元バラク・オバマ政権の経済顧問であったアラン・クルーガーが提唱した経済学の概念です。彼はこの概念を用いて、音楽業界の中で起こる様々な経済的現象とその影響を調査しました。
スーパースターエコノミー
クルーガーの観察によれば、音楽産業はしばしば「スーパースターエコノミー」の特徴を示すと指摘しています。これは、市場の大部分の利益がほんの一部のトップパフォーマーに集中している状況を指します。これは、音楽業界だけでなく、映画業界、スポーツ業界、さらには技術業界でも見られる現象です。
この現象は、デジタル化とグローバリゼーションにより増幅されています。例えば、デジタル音楽配信プラットフォームが普及することで、人々は世界中のどこからでも音楽を簡単に購入・ストリーミングできます。その結果、有名なアーティストの曲は世界中で広く聞かれるようになり、その収益も増大する傾向にあります。
また、ロッコノミクスは、音楽産業が他の産業とどのように相互作用するか、例えば規模の経済、ネットワーキング効果、著作権法などについても考察しています。これらの概念は、音楽業界だけでなく、様々な産業や市場全体の動向を理解するための鍵となることが多いです。
クルーガーは、音楽産業の研究を通じて、経済の理解を深める新たな視点を提供してくれました。それは、技術の進歩やグローバリゼーションが、どのようにして産業の構造と収益性を変化させるかを示す一例とも言えます。
一つのカテゴリーになりつつある、テイラー・スウィフトという存在
カリフォルニア大学リバーサイド校のキャロライン・スローン教授は、テイラー・スウィフトが単なるアーティストではなく、「一つのカテゴリーになりつつある」と述べています。また、チケット転売市場を研究しているパスカル・クーティ教授(カナダのビクトリア大学)は、「希少性が需要を増やしているという感触を得ることは非常に多い」と指摘しています。
スカルピングという現象
パスカル・クーティ教授の指摘は、経済学の基本的な原則を示しています。それは「希少性」が商品やサービスの価値を高めるという考え方です。これは、限定版の商品、人気のあるスポーツイベントやコンサートのチケット、稀少なアート作品など、供給が限られているものほど価値が上がる傾向があります。
音楽コンサートやスポーツイベントのチケット転売市場では、この原則が顕著に見られます。特定のイベントのチケットが限られた数しか存在しないため、需要が供給を上回ると価格は急上昇します。これが「スカルピング」と呼ばれる現象の一因で、転売者はイベントの人気や希少性を利用して高額でチケットを再販し、利益を上げることができます。
ただし、このような転売行為は公正な市場へのアクセスを阻害し、元の価格よりもはるかに高い価格でチケットを求める消費者を不利にするという批判もあります。これに対応するため、一部のアーティストやイベント主催者は、チケット転売を制限するためのさまざまな手段を導入しています。
価格の非弾力性
一方で、スウィフトノミクスが経済全般の疑問、すなわち金利と失業率が上昇する中でも消費が増え続けるのか否か、に対する答えを導く助けにはならないとの見解もあります。メリーランド大のカーニー教授は、米経済の健全性を考える上で法外な高額チケットをめぐる現象を深読みすることには慎重で、「大勢の熱烈なファンにとってチケットの需要というのは非弾力的な要素に近い。こうした解釈がむしろ適切のようだ」と述べています。
カーニー教授のコメントは、特定の商品やサービスに対する消費者の需要が「非弾力的」であるという経済学の概念を指しています。需要の「非弾力性」とは、価格が変動しても需要がそれほど変動しないという性質を指します。他の言葉で言えば、価格が上がっても、あるいは下がっても、消費者の購入量はあまり変わらないということです。
この概念は、特に熱心なファンのいるエンターテイメント産業においてよく見られます。たとえば、人気のあるバンドのコンサートチケットやスポーツイベントのチケットなどです。ファンがそのバンドやスポーツチームを非常に強く支持している場合、チケットの価格が上がっても需要が下がることはあまりありません。
これは、彼らがその経験を得ることに対する価値を高く評価しており、価格がそれほど重要な要素でないことを示しています。したがって、彼らの需要は価格の変動に対して「非弾力的」であると言えます。これはまた、このような非弾力的な需要が存在する市場では、転売業者が価格を引き上げることが可能であるという事実を説明しています。このため、チケットの転売市場での法外な価格がしばしば見られます。
まとめ
以上のように「スウィフトノミクス」とは、テイラー・スウィフトという特異なアーティストの影響力と、そのコンサートチケットに対する高い需要、そしてそれが引き起こす転売市場での異常な価格高騰などを指す現象で、経済学的な視点で分析されていることが理解できます。