二重らせん構造の発見以来、生物学に最も大きな変革をもたらした画期的な発見を追い、ノーベル賞受賞科学者の Thomas Cech (トーマス・チェック) が RNA の時代を解き明かす。半世紀以上にわたり、DNAは「生命の秘密」として科学界と人々の想像力を支配してきました。
しかし、ここ数十年の間に、静かな革命が起こりました。一連の驚くべき発見により、生化学者のトーマス・チェック氏と多彩な優秀な科学者たちが、長い間DNAの従属的な存在として見過ごされてきた RNA が、生物学最大の謎の中心に位置していることを明らかにしました。
人間とは何か?なぜ人は病気になるのか、なぜ老いるのか?『The Catalyst: RNA and the Quest to Unlock Life’s Deepest Secrets (触媒 : RNAと生命の深遠な秘密を解き明かす探求)』で、チェクは長年の研究をまとめ、RNAこそが地球上の生命の起源から21世紀の未来までを理解する真のカギであることを証明する。
発見のスリリングな旅である『The Catalyst(触媒)』は、RNAの驚くべき力を最初に示唆した初期の実験から、RNA が細胞反応を触媒できるというチェク自身のパラダイムを覆す発見、そして私たちの健康を再形成する最先端のバイオテクノロジーへと展開していきます。
かつてはDNAの遺伝的指示を細胞のタンパク質生成機構に伝えるものと考えられていた RNA が、生命そのものを活性化させる可能性があること、そして同時に、ウイルス感染症や癌によって個々の生命を短くしてしまう可能性があることを学びます。
RNA が老化プロセスにどのように関与しているかを見ていき、若さの泉とされるテロメラーゼの暗い深淵を探ります。また、RNAを動力源とする療法、すなわち、RNA を使って生命のコードを書き換える画期的なツールである CRISPR から、パンデミック時に数百万人の命を救った画期的な mRNA ワクチンまで、RNA を動力源とする療法が、自然の現在の限界を超えて、寿命を延ばすこと、さらには延ばすことさえ可能にするかもしれないという、スリリングな一端を垣間見ることができます。
一流の科学者の一人が執筆した『The Catalyst(触媒)』は、生物学と医学の現在と未来を知る上で必読のガイドです。本書は、2025年アンドリュー・カーネギー賞ノンフィクション部門優秀賞候補作、エコノミスト誌2024年ベストブックに選出されています。
触媒 (カタリスト) とは何か?
本書のタイトルである、『The Catalyst(触媒)』とは何でしょうか?”触媒(カタリスト)” とは、化学反応を加速させるための重要な存在です。触媒自体は反応後も元の状態を維持し、消費されることはありません。
その効果は驚異的で、化学反応の速度を10億倍から1兆倍以上も向上させることがあります。このため、触媒は単なる補助的な要素ではなく、反応全体に極めて大きな影響を及ぼします。
RNA と触媒作用の関係
RNA は触媒としての役割を果たす能力を持つことで知られています。RNAは、リボザイム(触媒活性を持つRNA)という形で化学反応を促進し、生命の基本的なプロセスに関与します。この多様性から、「RNAの世界」という言葉がよく使われます。
一方で、DNA は主に情報を保持し、複製する役割を果たしており、触媒としての機能はありません。このため、RNA は生命の起源や初期の進化において中心的な存在であると考えられています。
RNA の重要性
RNA は、次のように多岐にわたる機能を持つため、生命活動の中心的な役割を果たします。
・情報保持
RNA は DNA と同様に遺伝情報を保持することができます。例えば、インフルエンザウイルスやエボラウイルス、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)は、RNAゲノムを持っています。これらのウイルスは DNA を全く利用せず、RNAを基盤にして必要なタンパク質をコードし、宿主(私たち)に感染します。
・触媒活性
RNA はリボザイムとして、生命活動に必要な化学反応を促進します。例えば、タンパク質合成の過程でRNAは触媒として働き、生命を維持する基本的な役割を果たします。
・進化的役割
RNA は情報保持と触媒機能の両方を兼ね備えているため、生命の起源において中心的な役割を果たしたと考えられています。このような特性が、「RNAの世界」という概念を裏付けています。
DNA との違い
一方、DNA は生命活動において非常に重要な役割を果たしているものの、その機能は情報の保存と伝達に特化しています。この特化性のため、「DNAの世界」という概念は一般的ではありません。DNA は安定性が高く、長期的な情報保存に適している一方で、RNA ほど多様な機能を持ち合わせていないのです。