新型コロナウィルスは、中国の研究所で発生したのか?自然に発生したのか?その疑問について回答した、ワクチン専門家ポール・A・オフィット氏の著書『疫禍動乱 世界トップクラスのワクチン学者が語る、Covid-19 の陰謀・真実・未来』が日本でも出版されました。
著者のポール・A・オフィット氏は、フィラデルフィア小児病院(通称CHOP)のワクチン教育センターのディレクターであり、ペンシルベニア大学ペレルマン医学部のワクチン学のモーリス・ヒレマン教授および小児科学の教授でもあります。
また、ロタウイルスワクチンの共同発明者であり、FDAのワクチン委員会の顧問メンバーでもあります。本書では、新型コロナウイルスの起源や、再びパンデミックが発生する可能性、コロナウイルスが免疫系に与える影響、そしてハイリスクグループの特徴など、科学的・医学的な観点から詳しく解説されています。
また、今後もインフルエンザのように脅威をもたらす可能性のあるコロナウイルスについて、正しい情報を知るための一冊となっています。
新型コロナウィルス起源は?
本書では、COVID-19 の起源についても議論が続いています。「武漢市場起源説 (華南海鮮卸売市場)」や「研究所流出説」がありますが、真実を知るには中国政府が情報を公開しない限り、明確な答えが得られる可能性は低いでしょう。
COVID-19 が研究所から発生したのか、それとも武漢市場から発生したのかという議論がありますが、これは重要な問題です。なぜなら、過去20年間で SARS(2002年)、MERS(2012年)、そして COVID-19(2019年)の3つのパンデミックが発生しており、いずれも動物から人間への感染(スピルオーバー)が原因だったからです。
今回のCOVID-19も、2019年末に武漢の華南海鮮卸売市場で、不衛生な環境で違法に販売されていたコウモリなどの動物が関係していたと考えられています。最初の感染例はすべてこの市場で確認され、そこから広がっていきました。
しかし、中国政府は国際的な科学者チームの調査を十分に許可しなかったため、情報の不足から陰謀論が生まれる結果となりました。市場起源説を支持する証拠として、感染した動物やその遺伝子情報、動物の毛を除去するために使用された装置などが挙げられます。
一方で、研究所起源説では、ウイルスの特定の部位が自然界には存在しないと主張されていますが、実際にはこれらの部位は自然界にも確認されており、科学的に否定されています。
The quest to understand where the COVID-19 pandemic started has revealed fresh clues https://t.co/C2hZwtTKWT
— nature (@Nature) December 4, 2024
nature でも最近、「COVID-19 パンデミックがどこで始まったかを解明する探求から、新たな手がかりが見えてきた」というレポートが公開されています。このレポートでは、新たな研究により、COVID-19 パンデミックの発生源が武漢の市場であった可能性が高まっていることを示しています。
中国疾病予防控制中心の研究者が2020年初頭に華南海鮮卸売市場で採取したサンプルを再分析した結果、動物がウイルスに感染していた証拠が見つかりました。
特に、タヌキやオオアナグマモドキなどの SARS-CoV-2 に感受性のある動物のRNAプロファイルにおいて、ウイルス感染時に特有の免疫反応パターンが確認されました。これは、これらの動物が市場で感染していた可能性を示唆しています。
この発見は、COVID-19 の起源が動物から人への感染であるとする説をさらに支持するものです。
高リスク患者について
高リスクの患者について簡単に説明します。本の中で詳しく解説されていますが、特に注意が必要なグループには、65歳以上の高齢者や慢性疾患を抱える方が含まれます。
具体的には、糖尿病、心臓病、肺疾患を持つ方、肥満の方、そして妊娠中の女性が挙げられます。妊娠中の女性は、血液量が増えたり肺の状態が変化したりするため、COVID やインフルエンザに感染しやすいことが知られています。
さらに、最近では関節炎や潰瘍性大腸炎などの治療に使われる薬(生物学的製剤や免疫抑制薬)を使用している方も増えています。これらの薬は免疫系に影響を与えるため、ウイルス感染のリスクが高くなる場合があります。
ただし、薬によってそのリスクは異なります。例えば、関節リウマチの治療薬「ヒュミラ」は免疫抑制の効果がありますが、これだけで重篤な感染リスクが大幅に上がるわけではありません。
一方、多発性硬化症の治療薬であるモノクローナル抗体療法は、免疫系に強い影響を与えるため、より注意が必要です。このように、免疫抑制薬や治療法のリスクは個々に異なり、すべての患者を同じように考えるのは適切ではありません。
がん治療や移植後の拒絶反応を抑える薬、また喘息の軽い治療薬など、使用される薬には幅広い種類があります。これらの薬を使っている方は、自分がリスクの高いグループに入る可能性があることを認識し、感染を防ぐために早めの検査や治療を受けることが大切です。
特に心配なのは、リスクの高い方が抗ウイルス薬を使わないケースが多いことです。早期に適切な対策を取ることで、重症化を防ぐ可能性が大きく高まります。
ワクチンの効果に大きく関わるのが「潜伏期間」の違い
ワクチンの効果には「潜伏期間」が大きく関わります。潜伏期間とは、ウイルスに感染してから症状が出るまでの時間のことです。たとえば、インフルエンザやCOVID、RSウイルスなどの呼吸器系ウイルスは潜伏期間が短く、数日程度です。
一方、麻疹やポリオのような病気は潜伏期間が10日から14日と長いのが特徴です。潜伏期間が短いウイルス(インフルエンザやCOVIDなど)では、軽い症状を予防するために、感染時に血液中に抗体が十分にあることが重要です。
ただし、ワクチンや自然感染によって作られた抗体の量は、3~6か月で減少します。そのため、抗体が減ると軽症の予防が難しくなることがあります。しかし、重症化を防ぐために重要なのは「記憶細胞」という免疫の仕組みです。
記憶細胞(記憶B細胞や記憶T細胞)は、感染が始まって数日後に活性化し、再び抗体を作ることで体を守ります。このおかげで、COVID のような潜伏期間が短い病気でも、重症化を防ぐことができるのです。
一方、麻疹やポリオのように潜伏期間が長い病気では、記憶細胞が十分に時間をかけて働くため、軽い症状だけでなく感染そのものを防ぐことができます。これが、麻疹が2000年までにアメリカで根絶された理由でもあります。
麻疹のような病気に一度かかると、記憶細胞が何十年も働き続けるため、再び感染する可能性はほとんどありません。免疫システムは、特に「深い部分」で時間をかけてウイルスを抑え、広がる前に対処します。
たとえば、私は子供の頃に麻疹にかかりました。そのとき作られた抗体は数か月後に減少しましたが、記憶細胞は今も体内に残っています。そのため、現在麻疹にかかった人に接触しても、記憶細胞が素早く反応し、感染や軽症を防ぐことができます。
このように、潜伏期間が長いウイルス(麻疹や天然痘など)は感染を完全に防ぐことができ、それが根絶を可能にします。一方、COVID-19 のような潜伏期間が短いウイルスでは、軽い症状を防ぐことは難しい場合がありますが、重症化を防ぐことがワクチン接種の重要なポイントです。
ワクチンのブースター接種について
ワクチン接種への「疲れ」を感じる人が増え、「一体あと何回接種が必要なのか?」と疑問を持つ方も多いようです。本の中で説明されているように、イスラエルではファイザーと協力して多くの人にワクチンを接種し、何度も追加接種(ブースター)が行われました。
しかし、特に若い世代では、最初の接種や自然感染によってすでに十分な免疫ができている場合もあり、必ずしも追加接種が必要ではないのではないかという議論があります。
アメリカでは、COVID-19 のブースター接種を毎年行う方針がとられていますが、これは他の国とは異なります。他の国では、高齢者や慢性疾患を持つ方など、重症化リスクが高いグループに限定して接種を進めています。
一方、アメリカでは全員に接種を推奨することで、結果的に高リスクの人にも接種が行き渡ることを期待しています。ただ、この「全員接種」という方針には課題もあります。