ユヴァル・ノア・ハラリは、世界史に関する広範な知識を活かし、人類について幅広く、理解しやすく、役立つ理解を提示するという、素晴らしい独自の能力を持っています。
ハラリの次の新書『NEXUS』は、現在の情報革命をより深く理解することを目的としており、新しいテクノロジーが私たちにもたらすものを探究しています。
日本語訳は、2025年3月5日に『NEXUS 情報の人類史 上: 人間のネットワーク』、『NEXUS 情報の人類史 下: AI革命』の上下巻として出版されます。
本書『NEXUS』について
過去10万年の間、私たちホモ・サピエンスは膨大な力を蓄積してきました。しかし、数々の発見や発明、征服にもかかわらず、今、私たちは存続の危機に直面しています。
世界は生態系の崩壊の瀬戸際にあり、誤った情報があふれ、私たちは自らを滅ぼす危険性のある新たな情報ネットワークであるAIの時代へと突き進んでいます。これほどまでに多くのことを成し遂げてきたにもかかわらず、なぜ私たちはこれほどまでに自滅的なのか?
『Nexus』は、人類の長い歴史という長いレンズを通して、情報という流れが私たちと私たちの世界をどのように形作ってきたかを考察します。 ハラリは、石器時代から聖書の正典化、初期近代の魔女狩り、スターリニズム、ナチズム、そして今日におけるポピュリズムの復活までをたどり、情報と真実の複雑な関係について考えさせます。
彼は、歴史上のさまざまな社会や政治体制が、自らの目標を達成するために、良くも悪くも情報をどのように駆使してきたかを探究し、人間以外の知性が我々の存在そのものを脅かしている中、我々が直面している緊急の選択について論じています。
ユヴァル・ノア・ハラリ教授は、歴史家、哲学者であり、ベストセラー『サピエンス全史:文明の構造と人類の幸福』、『ホモ・デウス:テクノロジーとサピエンスの未来』、『21世紀の21の教訓』、およびシリーズ『サピエンス:グラフィック・ヒストリー』、『止められない私たち』の著者でもあります。
ハラリ教授は、現在活躍する世界で最も影響力のある知識人の一人とみなされています。1976年にイスラエルで生まれたハラリは、2002年にオックスフォード大学で博士号を取得しました。
現在は、エルサレム・ヘブライ大学の歴史学部の講師であり、ケンブリッジ大学の実存的リスク研究センターの特別研究員でもあります。ハラリは、教育とストーリーテリングに重点を置く社会貢献企業「サピエンスシップ」を、夫のイツァーク・ヤハヴ氏とともに共同設立しました。
本の表紙の鳥について
本に登場する主要なキャラクターの一つが「シャーラミー」という鳩です。さらに、ヘブライ語では鳩(ダヴ)とハト(ピジョン)の区別がなく、どちらも同じ言葉で表されます。
一方、英語ではピジョンは「翼のあるネズミ」として嫌われ、ダヴは平和の象徴として称えられることが多いですね。しかし、聖書のノアの洪水の物語では、ノアが送ったのはダヴではなくピジョンです。
現在私たちは情報の洪水の中で生きており、この本に登場するピジョンは、その洪水が終わったかどうかを確認するための象徴でもあります。
第一次世界大戦とシャーラミーの物語
シャーラミーは第一次世界大戦中にアメリカ軍の兵士たちを救ったことで、100年前に世界で最も有名な鳥となりました。物語の背景はこうです。フランス北部でアメリカ軍の大隊がドイツ軍に包囲され、自軍の砲撃を受けてしまいました。
兵士たちは自分たちの正確な位置を司令部に伝えるために走者を送ったものの、全員がドイツ軍の包囲を突破できず失敗。そこで、伝令鳩シャーラミーが選ばれました。
指揮官は小さなメモを鳩の足に結び付け、空へ放ちます。シャーラミーはドイツ軍の激しい砲火をくぐり抜け、数発の銃弾を受けて片足を失い、胸を撃たれながらも飛び続け、メモを司令部に届けました。
その結果、正確な位置に砲撃が指示され、大隊(後に「失われた大隊」と呼ばれる)は救助されました。この英雄的な行為により、シャーラミーは数百人の兵士を救った鳥として賞賛され、軍の記録や新聞記事、映画、児童書で語り継がれるようになりました。
物語の真実と情報の力
近年の歴史的研究によって、この話に疑問が投げかけられています。例えば、司令部が正しい位置を把握したのは鳩が到着する前だったこと、そもそも伝令鳩が本当にシャーラミーであったのかが不確かであることが分かりました。
それでもなお、シャーラミーは長年スミソニアン博物館に展示され、第一次世界大戦の退役軍人にとって巡礼地のような存在となりました。この物語は、本書のテーマを象徴しています。それは「情報の力」と、「真実と物語の間にある緊張関係」についての考察です。