今回は、臨床段階のバイオ企業が、いよいよ開発した新薬を上市する際のリスクについて詳しくご紹介します。上市初期におけるリスクとして存在するのが償還(リインバースメント)の問題です。
上市初期における償還(リインバースメント)の課題とは?
新薬や新医療技術が市場に導入される際、特に初期段階での「償還(リインバースメント)」、つまり医療保険制度などを通じた費用回収のプロセスが、大きな課題となることがあります。
特に、米国のような民間保険が中心の国では、新薬の価格設定や保険適用の決定が製品の商業的成功に大きく影響を与えます。
1. 償還の仕組みとは?
償還(リインバースメント)とは、医療機関や薬局が保険会社や政府機関から治療費の一部または全額を回収することを指します。例えば、病院が新薬を患者に提供した場合、保険会社がその費用を支払うことで、医療機関の負担を軽減します。
医薬品の場合、以下の要素が重要になります
・医療保険の適用範囲(この治療が保険でカバーされるか?)
・Jコードの取得(アメリカでは、特定の医薬品の請求に使われる保険コード)
・価格交渉と償還レート(保険会社が支払う金額の設定)
・患者自己負担額の調整(保険適用後でも患者が負担すべき費用)
2. 市初期の償還課題
市場導入初期における償還には、以下のような課題が存在します。
① 初期段階では「暫定コード(Miscellaneous Jコード)」を使用する
新しい医薬品は、市場導入時に**正式なJコード(保険請求コード)がまだ取得できていない場合が多く、「Miscellaneous Jコード」(暫定コード)**を利用する必要があります。このコードは汎用的なもののため、保険会社ごとに処理方法が異なり、償還プロセスが遅れる可能性があります。
影響
– 請求処理が遅延し、医療機関が支払いを受け取るまでの期間が長くなる
– 一部の保険会社が支払いを拒否する可能性がある
解決策
– 早期にJコードを取得する(通常、FDA承認後6~12カ月かかる)
– 特定の保険会社と事前契約を結ぶ(初期償還をスムーズにする)
② 保険会社との価格交渉と償還レートの設定
新しい治療法は、既存の治療と比較してコストが高くなることが多いため、保険会社がどの程度の価格を償還するかが重要になります。特に、高価なバイオ医薬品や新規がん治療薬では、償還率の設定が難しくなります。
影響
– 高額な治療薬の償還が制限されると、医師や病院が使用をためらう
– 一部の保険プランでは、患者負担が増える可能性がある(高額自己負担)
解決策
– 医療経済学的データを提供し、費用対効果を証明する
– 政府機関(CMSなど)と早期交渉を行う(アメリカの公的保険プログラムへの適用を早める)
③ 医療機関の支払い遅延とキャッシュフローの課題
医療機関は新薬を導入する際、自社で一定の在庫を持つことが多く、保険会社からの償還が遅れるとキャッシュフローに悪影響を与える可能性があります。
影響
– 病院が在庫を持てないため、新薬の普及が遅れる
– 医療機関が初期のコストを吸収できない
解決策
– 製薬会社が「ブリッジプログラム」を提供(償還までの間、一時的に無料で薬を供給)
– 早期の保険会社承認を得るためのリアルワールドデータを活用
3. 具体的な事例
例えば、UroGen Pharma の「UGN-102」は、2025年6月13日に FDA の PDUFA(承認期限)を迎える予定ですが、市場導入時には「暫定Jコード」を使用する可能性が高いです。そのため、販売初期において償還が遅れるリスクがあると指摘されています。
しかし、同社はこれに対処するため、販売チームを52名から83名に増員し、医療機関と直接コミュニケーションを取ることで、導入初期の償還プロセスをスムーズにする戦略を取っています。
これにより、償還プロセスが50~60日ほど長引く可能性があります。しかし、UroGen は2026年1月までに恒久的なJコードを取得できる見込みであり、それにより償還手続きが簡素化されるはずです。
4. まとめ
市初期の償還課題には、暫定コードの使用、保険会社との価格交渉、医療機関の支払い遅延がある。解決策として、早期Jコード取得、医療経済学データの活用、ブリッジプログラムの提供が有効。
特に高額な新薬は、保険償還プロセスが遅れる可能性があるため、製薬会社の事前対応が重要。市初期における償還の課題は、新薬の成功を左右する重要なポイントとなるため、投資家にとっても企業の戦略を見極める鍵となります。