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Reata Pharmaceuticals が IPO してからバイオジェンに買収されるまでの物語

Reata Pharmaceuticals が IPO してからバイオジェンに買収されるまでの物語

ある臨床バイオ企業が IPO してから買収されるまでの経緯を追ってみよう。今回は、2023年8月に Biogen (バイオジェン / BIIB) によって買収された Reata Pharmaceuticals (リータ・ファーマシューティカルズ / RETA) を取り上げます。

同社は2016年5月に IPO し、IPO 時には主要パイプラインであるフェーズ3の「bardoxolone methyl」とパイプライン候補であるフェーズ2の「omaveloxolone」を有していました。

当初は主要パイプラインでありフェーズ3の「bardoxolone methyl」で注目を集めていましたが、最終的にはこの主要パイプラインは頓挫してしまい、IPO 時には製品候補であった「omaveloxolone」が後にFDA承認され、Biogen に買収される要因となりました。

このような臨床バイオの IPO から買収されるまでのドラマ、ストーリーを追うことで、現在臨床段階にあるバイオ企業を追う何らかの参考になるかもしれません。それでは Reata Pharmaceuticals が IPO してから買収されるまでのハイライトを追ってみましょう!

2016年に11ドルでIPO、後期臨床の2つのパイプラインを有す

2016年5月下旬に11ドルで IPO した Reata Pharmaceuticals ( $RETA ) は、この時フェーズ3の「bardoxolone methyl」とフェーズ2の「SKYCLARYS (omaveloxolone)」2つのパイプラインを持っていました。

当初 Reata は主要パイプラインの腎臓病治療薬である「bardoxolone methyl」で評価を受けており、投資家はこのパイプラインの動向に注目していました。

IPO〜2018年4月まで株価はレンジで推移

是非 Reata のチャートを見ながらこの記事を読んでいただきたいのですが、Reata の株価チャートに注目すると、2016年から2018年4月頃まで横ばいが続き、6月には株価は2倍の43ドルくらいに推移、7月下旬には大きな出来高を持って84ドルぐらいまで急騰しています。9月下旬には99ドルの高値をつけ、年末の12月には47ドルに戻すものの、翌年2019年3月には104ドルの高値を奪還、以降75ドル90ドルのレンジで推移していました。

主要パイプライン「bardoxolone methyl」への期待

Reata の株価が大きく動いたのは2019年の10月です。進行中の「bardoxolone methyl」によるアルポート症候群治療のための第3相CARDINAL試験の期待を受けて株価は90ドル代から184ドルの大幅上昇しました。そして丁度2020年のコロナ直前である2月7日には258ドルという高値まで上昇しています。

「bardoxolone methyl」の頓挫

しかしその後、コロナショック、主要パイプライン「bardoxolone methyl」のFDAから承認を推奨しないという決定などで株価は徐々に下落。2022年初頭には、FDAから新薬申請(NDA)に対する完全回答書簡(CRL)を受け取り、承認が得られませんでした。

更にこの時期、FRBのアグレッシブルな利上げにより株価は28ドルに暴落、他の株式同様に株価は鍋底を形成し最終的には2022年8月中旬に18ドルの安値を更新しました。

結局、Reata の主要パイプライン「bardoxolone methyl」は新薬開発に13年間を費やしましたが、失敗に終わってしまいました。過去のバイオ投資について非常に重要な記事「バイオテクノロジー株のライフサイクル投資」でも触れているように、新薬開発には通常10~15年、10億ドル以上を要し、成功率は約10%という極めてハイリスクであることが知られています。

Reata の場合は2つ目のパイプラインがFDA承認され買収されましたが、パイプラインが1個しかない場合などは、このことも考慮し、どこかのタイミングで株価が急騰したら売り抜けることも戦略として考慮する必要があるでしょう。買収期待であればハイリスクを承知の上でロングし続けることも考えられますが、臨床バイオを脳死状態でロングしていると爆死しますので気をつけましょう。

Reata の第二章が始まる

ここで終わったかに思えますが、ここから Reata の第二章が始まります。利上げの終わりが見え始めると相場は底入れし、Reata にも徐々に買いが入り30ドル、40ドル後半ぐらいまでバウンスします。

そしてここで遂に IPO 時はフェーズ2の製品候補であったフリードライヒ運動失調症の治療薬「SKYCLARYS (omaveloxolone)」が本格的に動き出します!

「SKYCLARYS (omaveloxolone)」のFDA承認

「SKYCLARYS (omaveloxolone)」は2023年2月28日にPDUFA日を迎え、FDAが申請された薬の承認可否を決定します。しかしその前にちょっとした事件が起こります。「SKYCLARYS (omaveloxolone)」のPDUFA日前に、FDA神経科学部長ビリー・ダン氏が即座にその職を退くこというニュースが流れました。

このニュースを受けてウォール街のアナリストは、ダン氏の退任は近い将来、神経系薬剤の決定に対する規制当局のスタンスに影響を与える可能性があるとし、Reata の株価はバウンスした直近高値の40ドル後半から26ドルまで下落しました。

Biogen による買収

しかし見事にFDA承認されると株価は26ドルから95ドルに急騰。その後106ドルまで上昇し、正式に主要パイプラインであった「bardoxolone methyl」の開発中止のアナウンス、急騰した反動なども受けて76ドルまで下落。しかし最終的には23年7月28日のプレスリリースで、リードアセットの「SKYCLARYS (omaveloxolone)」が評価されブロックバスターの Biogen に買収された。株価は111ドルから172ドルに上昇してエクジットとなっている。

金融機関による評価

2023年1月にウェルズ・ファーゴが臨床バイオ企業の買収予想をピックしていますが、その中に Reata Pharmaceuticals も含まれていました。このピック一覧には、他にも買収された Cerevel Therapeutics、ImmunoGen、Mirati Therapeutics も入っていたので、なかなか筋は良いと思います。

この時のウェルズ・ファーゴによる Reata Pharmaceuticals の評価は次のようなものです。RETAのフリードライヒ運動失調症に対する最初の承認は、PFEにとって魅力的であるかもしれません。RETAの腎臓パイプラインは、AMGN、BMY、およびGILDの心血管(CV)フランチャイズを強化する可能性がありますが、ABBVはそのRETAパートナーシップを終了しました。

インサイダー売りを読む

インサイダー売り = そのバイオ銘柄が売りではないことは、数々の買収された銘柄が物語ってきました。Reata も「SKYCLARYS (omaveloxolone)」のFDA承認後の2023年5月から役員による、下記のようなインサイダー売りが続きました。

・Soni Manmeet Singh(COO, CFO, President):
2023年7月28日に75,000株を$164.62で売却しました。
また、2023年6月12日には82,799株を$102.71で売却しています。
さらに、5月15日と5月12日に合計44,273株を売却しました。

・Ruff Shamim(Director):
2023年7月28日に8,231株を$164.53で売却。
2023年3月10日には5,740株を$83.73で売却。

・McClellan William D. Jr.(Director):
2023年7月28日に5,000株を$164.49で売却。

・Bir Dawn Carter(Chief Commercial Officer):
2023年7月28日に40,000株を$164.54で売却。
また、3月には合計24,626株を売却しています。

・Anand Bhaskar(SVP, Chief Accounting Officer):
2023年6月14日に2,341株を$102.11で売却。
5月7日には16,450株を$84.58で売却。

・Loewen Andrea(SVP, Global Regulatory Affairs):
2023年5月12日、5月16日、3月16日、3月10日に合計42,320株を売却。

・Wortley Michael D(General Counsel):
2023年5月15日に1,310株を$83.59で売却。

・Meyer Colin John(Chief Innovation Officer):
2023年5月15日に6,239株を$84.56で売却。

・Khan Samina(SVP, Chief Medical Officer):
2023年5月15日に64,591株を$83.15で売却。

以前じっちゃまこと広瀬さんは、役員の売りは経営者として当たり前の権利だと話ていたのを覚えています。リスク取って開発を進めているんだから、株価が上がって持ち株を売却するのは健全なことと言っていました。

バイオファンドによるポジション

上記の IPO から買収までの流れを踏まえて、バイオファンドがどのタイミングで新規に買いに入ったり、追加したのか?を探ってみたい。

– 2023年6月16日に ADAGE CAPITAL が1,730,841株新規買い

– FDA承認後の急騰して2023年3月6日に Perceptive が2,083,799株新規買い。

– 2023年2月上旬頃 Point72 Asset がポジションの99%以上となる1,653,394株を売り。

– 2023年2月上旬頃 EcoR1 Capital が全ポジションの1,975,611株を売り。

考察

Reata Pharmaceuticals の買収劇から学ぶことができるのは、IPO 時に後期臨床のパイプラインを有している臨床バイオ企業は注目に値するということです。

更に後期臨床のパイプラインを2つ持っていたことが、Reata Pharmaceuticals の買収につながったこともポイントです。これは後になってみないと分からない事ですが、主要パイプラインであった「bardoxolone methyl」が頓挫し、結局 IPO 時に製品候補、第二のパイプラインであった「omaveloxolone」がFDA承認され、上市、買収につながりました。

持っているパイプラインのアンメットニーズ、治療領域の市場規模にもよりますが、後期臨床のパイプラインを2つ持っていたことが、ある種の保険となりました。臨床バイオをプレイしていると、臨床が失敗して株価も暴落、もうダメだ … ということは幾度となくありますが、もし他にもカタリストとなるパイプラインを持っていれば、奇跡の第二章が始まる可能性もあるのです。

また臨床バイオをプレイしていると、Reata のように関係部署の人事移動、PDUFA日の駆け引き、SNSによるネガティブな噂、悲観というようなことが度々起こります。そういう時に噂に流されるのではなく、冷静な視点で物事を考えることが必要だと思います。

株価に注目すると、IPO 時の11ドルが下値で、11ドルを下回ることはありませんでした。

Larimar Therapeutics のパイプライン「Nomlabofusp」のカタリスト

この記事を書いた背景には、「SKYCLARYS (omaveloxolone)」に続くフリードライヒ運動失調症の治療薬として、Larimar Therapeutics(LRMR)がフェーズ2で開発中の「nomlabofusp (CTI-1601)」について調査していたことがあります。

同じ領域の治療薬ということもあり、臨床のタイムラインや上市されている「SKYCLARYS」とは何が違うのか?など、比較するのに役立つと思います。