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新世代 Nectin-4 を標的とする ADC 抗体薬物複合体の競合状況

Nectin-4 を標的とする ADC 抗体薬物複合体の競合状況

以下の画像は、Nectin-4 を標的とする ADC 抗体薬物複合体の開発状況について示されたランドスケープです。

Nectin-4(ネクチン-4)とは?

Nectin-4 とは、免疫グロブリン・スーパーファミリーに属する細胞接着分子であり、細胞間の接着やシグナル伝達に関与しています。 通常、Nectin-4 の発現は胎盤や胚などの組織に限定され、成人の正常組織ではほとんど発現しません。

しかし、Nectin-4 は乳がん、尿路上皮がん、肺がん、膵がん、卵巣がんなど、さまざまな悪性腫瘍で過剰発現していることが報告されています。 このような腫瘍における高発現により、Nectin-4 はがんの診断や予後の指標、さらには治療の標的として注目されています。

実際、Nectin-4 を標的とした抗体薬物複合体(ADC)である「PADCEV® (エンホルツマブ ベドチン)」は、2019年に米国食品医薬品局(FDA)によって尿路上皮がんの治療薬として承認されました。

さらに、Nectin-4 は細胞間接着だけでなく、細胞の移動や増殖にも関与しており、がんの進行や転移に寄与する可能性があります。このように、Nectin-4 はがん研究や治療において重要な役割を果たす分子として注目されています。

1. 全体構造

画像は、Nectin-4 を標的とする ADC(抗体薬物複合体)の競争環境を示しています。円形の中心にこの分野の標準治療薬である「PADCEV®」が配置され、その周囲に現在開発中の ADC 薬剤と臨床フェーズに基づいて分布しています。

2. ADC の分類

左側に 「Topol ADCs」(トポイソメラーゼ阻害薬を含むADC)と、下側に 「Tubulin inhibitor ADCs」(微小管阻害剤を含むADC)の2つのカテゴリが示されています。

Topol ADCs とは、トポイソメラーゼ阻害薬を搭載したADCです。Tubulin inhibitor ADCs は、微小管(チューブリン)阻害薬を搭載したADCです。

Tubulin inhibitor (チューブリン阻害薬) とは?

Tubulin inhibitor (チューブリン阻害薬) は、がん治療において重要な役割を果たす薬剤の一種で、細胞分裂を妨害することで腫瘍細胞の増殖を抑える効果を持ちます。

Tubulin inhibitor は、細胞分裂の鍵を握る微小管に作用し、がん細胞の増殖を抑える薬剤です。これを搭載したADCは、高い標的性と効果を持ち、「PADCEV®」のように治療効果が証明されています。

新世代の Nectin-4 ADC にも、同様のメカニズムを持つ薬剤が搭載されており、現在多くが臨床試験中です。

3. 標準治療薬「PADCEV®」の位置づけ

円の中心に配置されている 「PADCEV®」 は、現時点で唯一FDAから承認 (2019年) されている抗 Nectin-4 ADC であり、尿路上皮癌(UC)を適応としています。これが現在の標準治療薬として位置づけられています。

この「PADCEV® (エンホルツマブ ベドチン)」は、アステラス製薬株式会社とファイザーに買収された Seagen (シージェン) が共同で開発した抗体薬物複合体(ADC)です。

4. 競争状況

以下は各領域に配置されたADC候補です。

・フェーズ1/2にあるADC
Adcentrx Therapeutics の「ADRX-0706」、Corbus Pharmaceuticals の「CRB-701」、Eli Lilly の「LY4101174」、Eli Lilly の「LY4052031」、Innate Pharma の「IPH4502」、Merck の「MK-3120」、Bio-Thera Solutions の「BAT8007」などが含まれています。多くは Tubulin inhibitor ADC のカテゴリに分類されています。

・フェーズ2にあるADC
Bicycle Therapeutics の「Zelenectide pevedotin (BT8009)」がこの段階にあります。

・フェーズ3にあるADC
江蘇恒瑞医薬の「SHR-A2102」が中国でフェーズ3試験を進行中です。Mabwell の「9MW2821」もフェーズ3段階の候補です。

5. 新世代のADC

「PADCEV® (エンホルツマブ ベドチン)」は唯一承認済みの抗 Nectin-4 ADC です。現在開発中の新しい Nectin-4 ADC の多くは Tubulin inhibitor を搭載しており、Topol ADCs はほとんどフェーズ1/2にあります。

Innate Pharma は、Nectin-4 を標的とする新たなADCである「IPH4502」の第I相臨床試験を開始し、進行性固形腫瘍患者への安全性と有効性の評価を進めています。

Corbus Pharmaceuticals (CRBP) は、Nectin-4 を標的とする次世代ADCである「CRB-701(SYS6002)」の開発を進めています。この薬剤は、部位特異的な切断可能なリンカーと均一な薬物抗体比(DAR)を持ち、MMAEをペイロードとして使用しています。現在、進行性固形腫瘍患者を対象とした第1相臨床試験(NCT06265727)を米国と英国で実施中であり、用量漸増パートの登録を完了し、2025年第1四半期に初期データの発表を予定しています。

Bicycle Therapeutics は、独自の Bicycle®技術を活用した Bicycle Toxin Conjugates®(BTC)を開発しています。その中で、EphA2を標的とする「BT5528」は、従来のADCで見られた安全性の問題を克服する可能性を持つとされています。前臨床試験では、「BT5528」は短い半減期と迅速な腎排泄を示し、組織への適切な分布を確認しています。

「SHR-A202」は例外で、中国でフェーズ3試験に進んでいます。

6. 地域別の開発状況

米国および欧州では、複数の新薬候補が開発されています。中国では、「SHR-A2102」などが進展しています。

まとめ

Nectin-4 を標的とする ADC 治療の競争環境と進捗状況をわかりやすく示したものであり、次世代のADCが微小管阻害薬やトポイソメラーゼ阻害薬を利用して開発されている点が注目されます。

また、「PADCEV®(エンホルツマブ ベドチン)」が現在の標準治療薬として存在しており、それを追随する候補が臨床試験中であることがわかります。

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