2024年の秋頃より、水面下で進行している米国におけるH5N1鳥インフルエンザに関連する銘柄をご紹介します。
H5N1鳥インフルエンザの現状
2025年1月20日にトランプ政権が発足して以来、米国におけるH5N1型鳥インフルエンザの感染状況に関する情報提供が遅延しています。
新政権は、疾病対策センター(CDC)や国立衛生研究所(NIH)などの連邦保健機関に対し、外部への情報発信を一時的に全面停止するよう指示しました。
この指示により、鳥インフルエンザの感染状況に関する報告や、州保健当局との会議が中止され、重要な情報の共有が滞っています。さらに、トランプ大統領が世界保健機関(WHO)からの脱退を決定したことで、国際的な情報共有も妨げられています。
2024年以降、米国では約70人がH5N1型鳥インフルエンザに感染し、2025年1月には初の死亡例が報告されました。感染者の多くは、病気の家禽や乳牛との接触が原因とされています。
しかし、連邦政府の情報発信制限により、最新の感染状況や公衆衛生上のリスクに関する情報が一般市民や医療関係者に適切に伝わっていない状況です。このため、専門家や州当局からは、情報の透明性と迅速な共有を求める声が高まっています。
現時点で、CDCは一般市民へのリスクは低いとしていますが、ウイルスの変異による人から人への感染拡大の可能性も懸念されています。公衆衛生当局は、感染拡大を防ぐための対策強化と、最新情報の適時提供が急務であると指摘しています。
元FDA長官スコット・ゴットリーブ博士の見解
スコット・ゴットリーブ博士は、H5N1がパンデミックに発展する可能性は低いとしつつも、万が一そうなった場合、米国は自らの対応不足を非難されるだろうと指摘しています。
また、ある小規模な研究で農場労働者の約15%がH5N1に対する抗体を保有していたことを紹介し、この期間中、CDCはウイルスの潜在的な拡散を十分に把握できていなかったと述べています。
スコット・ゴットリーブ博士は米国における鳥インフルエンザの症例とその対応について、CNBCの番組『Fast Money』に出演し、懸念を表明しています。
これらの発言から、スコット・ゴットリーブ博士はH5N1型鳥インフルエンザの潜在的なリスクに対する警戒と、米国の公衆衛生当局による適切な監視と対応の重要性を強調しています。
H5N1鳥インフルエンザ関連銘柄
現在、H5N1鳥インフルエンザの治療薬として、Cidara Therapeutics (CDTX)、Traws Pharma (TRAW)、Moderna (MRNA)、Novavax (NVAX)、CureVac (CVAC) というバイオ企業がワクチンや経口薬の開発を行っています。各社が開発中の治療薬について詳しく見ていきましょう。
Cidara Therapeutics (CDTX)
Cidara Therapeuticsは、感染症やがんに対する新しい治療法の開発に注力しているバイオ医薬品企業です。同社はインフルエンザを含むさまざまなウイルス感染症に対する治療薬の研究開発を行っています。
Cidara は、独自の Cloudbreak®プラットフォームを活用し、季節性およびパンデミック型インフルエンザに対するユニバーサルな予防と治療を目指した新しい抗ウイルス薬「CD388」を開発しています。
「CD388」は、強力な小分子ノイラミニダーゼ阻害剤をヒト抗体フラグメント(Fc)に結合させた「Drug-Fc Conjugate(DFC)」と呼ばれる新しいクラスの低分子量生物製剤です。この設計により、ウイルスの増殖を直接阻害すると同時に、免疫系を活性化してウイルスの排除を促進します。
「CD388」は、単回の皮下または筋肉内投与で、すべての既知の季節性およびパンデミック型インフルエンザ株に対してシーズン全体の保護を提供する可能性があります。特に、ワクチンとは異なり、免疫応答に依存しないため、免疫状態に関係なく効果を発揮すると期待されています。
FDA からファストトラック指定
2023年6月、米国食品医薬品局(FDA)は「CD388」に対してファストトラック指定を付与しました。その後、2024年9月には第2b相臨床試験「NAVIGATE」が開始され、同年12月に被験者の登録が完了しました。この試験は、健康な未接種の成人を対象に、「CD388」の安全性、薬物動態、およびインフルエンザの発症率を評価することを目的としています。
さらに、2024年4月、Cidara Therapeutics は Janssen Pharmaceuticals からCD388のグローバルな開発および商業化権利を再取得しました。この取引により、Cidara は「CD388」の開発を主導し、ユニバーサルなインフルエンザ予防薬としての実現に向けた取り組みを強化しています。
「CD388」は、現在進行中の臨床試験において、単回投与で季節性およびパンデミック型インフルエンザのすべての株に対する長期的な保護を提供する可能性が示されています。この新しい治療法は、従来のワクチンや抗ウイルス薬に代わる有望な選択肢となることが期待されています。
Traws Pharma (TRAW)
Traws Pharma が開発中の経口治療薬「tivoxavir marboxil」は、H5N1型鳥インフルエンザの治療および予防を目的とした新しい抗ウイルス薬です。この薬剤は、インフルエンザウイルスの複製に必要なCAP依存性エンドヌクレアーゼ(CEN)という高度に保存されたタンパク質を阻害するよう設計されています。
Traws Pharma は、呼吸器ウイルス疾患の治療のための経口小分子療法の開発を行う臨床段階のバイオ医薬品企業です。同社はH5N1鳥インフルエンザの治療または予防を目的とした経口治療薬「tivoxavir marboxil」の開発を進めています。2024年12月には、健康なボランティアを対象とした第1相臨床試験を完了し、安全性と忍容性が確認されました。
前臨床試験の結果
前臨床試験では、「tivoxavir marboxil」が薬剤耐性インフルエンザウイルスや高病原性鳥インフルエンザウイルス(H5N1)に対して強力な阻害効果を示しました。特に、H5N1ウイルスに感染したマウスモデルでは、「tivoxavir marboxil」の経口投与により完全な生存率が確認され、肺内のウイルス量が検出限界以下に抑制されました。
第1相臨床試験の結果
2024年10月に発表された第1相臨床試験のトップライン結果によると、健康な成人ボランティアにおいて「tivoxavir marboxil」は良好な安全性と忍容性を示しました。単回投与後、血漿中の薬物濃度がEC90(90%のウイルス抑制効果を示す濃度)を23日以上上回ることが確認され、単回投与による予防効果の可能性が示唆されています。
今後の開発計画
Traws Pharma は、2025年前半に第2相臨床試験を開始する予定です。この試験では、「tivoxavir marboxil」の有効性と安全性をさらに評価し、H5N1鳥インフルエンザの治療および予防薬としての臨床を進めています。
Moderna (MRNA)
Moderna は、H5N1型鳥インフルエンザに対するmRNAワクチン「mRNA-1018」の開発を進めています。このワクチンは、H5およびH7亜型のインフルエンザウイルスに対する免疫応答を誘導することを目的としています。
初期試験
2023年に第1/2相試験を開始し、健康な成人を対象に安全性と免疫原性を評価しました。初期データでは、「mRNA-1018」が強力な免疫応答を誘導することが示され、Moderna は第3相試験への移行を計画しています。
政府からの支援
2024年7月、米国政府はH5N1ワクチンの開発加速を目的として、Moderna に1億7600万ドルの資金を提供しました。さらに2025年1月には、追加で5億9000万ドルの支援が行われ、これにより「mRNA-1018」の後期臨床試験や他のパンデミックインフルエンザ亜型に対するワクチン開発が促進される予定です。
今後の展望
Moderna は、mRNA技術を活用したH5N1ワクチンの開発を加速させることで、将来的なパンデミックに備えています。現在、第3相試験の準備が進められており、成功すれば「mRNA-1018」はH5N1型鳥インフルエンザに対する有効な予防手段となることが期待されています。
Novavax (NVAX)
Novavax は、H5N1型鳥インフルエンザを含むインフルエンザワクチンの開発に取り組んでいます。同社は、組換えナノ粒子技術を用いたワクチン候補を開発しており、これにより強力な免疫応答を誘導することを目指しています。
初期臨床試験
Novavax は、H5N1ワクチン候補の第1相臨床試験を実施し、安全性と免疫原性の評価を行いました。試験結果では、ワクチンが強力な免疫応答を誘導し、安全性プロファイルも良好であることが示されました。
今後の展望
Novavax は、H5N1を含むインフルエンザワクチンの開発を継続しており、さらなる臨床試験や規制当局との協議を進めています。同社の組換えナノ粒子技術を用いたワクチンは、従来のワクチンと比較して効果的な免疫応答を誘導できる可能性があり、パンデミック対策として期待されています。
なお、2025年1月に米国でH5型鳥インフルエンザによる初の人間の死亡例が報告された際、Novavax の株価は約10.8%上昇しました。これは、同社のH5N1ワクチン開発への期待が高まったことが要因とされています。
CureVac (CVAC)
CureVac は、英国の製薬大手 GlaxoSmithKline(GSK)と共同で、H5N1型鳥インフルエンザに対するmRNAワクチンの開発を進めています。このワクチン候補は、CureVac の独自の第2世代mRNA技術を基盤としており、インフルエンザA型H5抗原をコードしています。
CureVac の第2世代mRNA技術は、細胞内でのmRNA翻訳効率を高め、早期かつ強力な免疫応答を誘導することを目指しています。この技術により、H5N1ウイルスに対する効果的な予防手段の提供が期待されています。
第1/2相臨床試験の開始
2024年4月24日、CureVac は GSK との共同開発によるH5N1プレパンデミックワクチン候補の第1/2相臨床試験を開始しました。この試験は、健康な18歳から85歳の成人を対象に、ワクチンの安全性、反応原性、および免疫原性を評価することを目的としています。
米国食品医薬品局(FDA)によるファストトラック指定
2024年4月、FDAはこのH5N1ワクチン候補に対してファストトラック指定を付与しました。これにより、ワクチンの開発と承認プロセスが迅速化されることが期待されています。
H5N1 関連銘柄の臨床フェーズ
CDTX 第2b相臨床試験「NAVIGATE」を完了、結果の解析中
TRAW 2025年前半に第2相臨床試験
MRNA 第3相臨床試験の準備段階
NVAX 第2相臨床試験の準備中
CVAC 第1/2相臨床試験を開始し、安全性、反応原性、および免疫原性を評価中
これらの企業は、H5N1鳥インフルエンザのワクチンや治療薬の開発に積極的に取り組んでおり、関連ニュースや進捗状況に応じて株価が変動する可能性があります。投資を検討される際は、最新の情報を確認し、慎重に判断してください。
この記事は、投資を推奨するものではありません。