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イーライリリーの GLP-1 減量薬が NASH 治療にも有効なデータを示す

イーライリリーの GLP-1 減量薬が NASH 治療にも有効なデータを示す

Eli Lilly (イーライリリー) が2024年2月6日に発表した、GLP-1 減量薬 tirzepatide (チルゼパチド) の NASH (非アルコール性脂肪肝炎) 有効性データによって、NASH 治療薬のパイプラインを開発する中小のバイオ企業の株が大きく売られました。

現在AIの技術革命により、ハイテク市場では2023年の生成AIの大ブームから半導体が大きく買われています。同じように、バイオテクノロジーのセクターでは、2023年の GLP-1 減力薬の大ブームが継続しています。

現在 GLP-1 の市場は、大手製薬会社イーライ・リリーとデンマークの製薬大手 Novo Nordisk (ノボ・ノルディスク) が牛耳っています。もし GLP-1 薬が MASH (NASH) にも有効となった場合、NASH 治療薬を開発している中小のバイオ企業に影響を与える可能性が出てきました。

そもそも、GLP-1 (グルカゴン様ペプチド1) と NASH (非アルコール性脂肪肝炎) って何?という方のために、GLP-1 と NASH について説明し、今回の騒動を取り上げます。

GLP-1 とは?

GLP-1 受容体アゴニスト:糖尿病治療の革新と市場の主要製品

GLP-1 は体内で生成される内因性ホルモンで、主に膵臓のβ細胞から分泌されます。このホルモンは食事後のインスリンの分泌を増加させることにより、血糖を下げる作用があります。また、GLP-1 は満腹感を促進し、胃の空腹時の動きを遅らせることで食事の量を減らすことができます。これらの効果により、GLP-1 は糖尿病治療薬として使用されるだけでなく、体重管理にも役立ちます。

MASH (NASH) とは?

非アルコール性脂肪性肝炎 NASH/MASH 治療薬で初のFDA承認

MASH (NASH) は、非アルコール性脂肪肝炎と呼ばれる肝疾患の一種で、アルコール摂取が原因ではない (アルコールを飲まない) にもかかわらず、肝臓に脂肪が蓄積し、炎症や肝細胞の損傷が生じる状態を指します。

時間とともに NASH は肝硬変や肝臓のがんへ進行することがあり、重篤な健康問題を引き起こす可能性があります。NASH は、MASH (代謝機能障害関連脂肪肝炎) とも呼ばれ、肝臓の病気の一種です。NASH の治療薬は、この病気の進行を遅らせるか、改善することを目指しています。

NASH の治療には、ライフスタイルの変更 (食事の改善や運動の増加) が基本とされています。また、NASH に伴う症状や合併症を管理するために、高血圧や糖尿病、高脂血症などの治療薬が用いられることがあります。

NASH 治療薬の開発は、医療界にとって重要な課題の一つであり、有効な治療薬の承認は多くの患者にとって待望のニュースとなるでしょう。今後、臨床試験の結果や FDA の審査プロセスを通じて、新たな治療オプションが提供されることが期待されています。

(MASH : Metabolic dysfunction-Associated SteatoHepatitis / 旧病名 NASH : NonAlcoholic SteatoHepatitis)

GLP-1 は、NASH にも有効なのか?

これら二つは、GLP-1 が体重減少や糖尿病治療に役立つホルモンであり、NASH が疾患の一種であるという点で根本的に異なります。ただし、GLP-1 関連療法が NASH 治療にも一定の効果があるという臨床結果があり、NASH に関連した体重減少や代謝改善の可能性が指摘されています。

しかし、肥満症、代謝性疾患、MASH/NASH (非アルコール性脂肪性肝炎) なども同様に広範囲であり、まだこの市場に参加していない (パイプラインを持っていない)、メルク、ファイザー、ブリストル・マイヤーズ・スクイブ、ギリアド・サイエンスのような大手製薬会社はそこに参入しなければならないだろう、という投資家の声もあります。

肥満症、代謝性疾患、MASH/NASH の大きな市場ポテンシャル

GLP-1薬、糖尿病・肥満症治療薬が市場に与える影響とは?

その背景には、大きな市場ポテンシャルにあります。これらの疾患は世界人口のかなりの部分に影響を及ぼしており、新規治療薬にとって大きな市場機会があります。

肥満とそれに関連する代謝異常の有病率は世界的に増加しており、医療システムにとっても製薬企業にとっても優先事項となっています。また、これらの疾患に対する治療法があるにもかかわらず、より効果的で安全な治療法に対するアンメット・メディカル・ニーズは依然として高いのが現状です。

例えば、NASH は肝疾患の主要な原因であるが、その治療に特化したFDA承認の治療薬がないため、医薬品開発の大きな機会となっています。大手製薬会社は、有望なパイプラインを持つバイオテクノロジー企業の買収や提携を通じて、新たな治療領域に参入することが多いです。

この戦略により、研究開発をゼロから始めることなく、革新的な医薬品でポートフォリオを拡大することができます。大手製薬企業にとって、製品ポートフォリオを多様化することは、リスクを軽減するための重要な戦略です。

イーライリリーの減量用チルゼパチドGLP-1アゴニストが示すポジティブなデータ

イーライリリーが2024年2月6日に発表した、減量用チルゼパチド GLP-1 アゴニストのポジティブな第2相試験の結果によると、チルゼパチドが NASH の治療に良好な効果を示し、52週間の投与で線維症の悪化を伴わずに疾患が消失した患者がかなりの割合(試験された最高用量で74%)で認められたことが強調されている。

このデータが公開された後、株式市場では NASH 治療のパイプラインを開発しているバイオ企業が大きく売られ、GLP-1 を開発しているパイプラインのバイオ企業が買われました。

イーライリリーのような大企業が GLP-1 関連治療薬で NASH の治療に大きな有効性を示すことができれば、NASH の治療薬を開発している中堅・中小バイオ企業の市場や投資意欲に影響を与える可能性があります。

一方でイーライリリーのチルゼパチドは、NASH の逆転を主要評価項目として非常に説得力のある結果を示しましたが、肝線維化の悪化なしに肝線維化を減少させるという重要な副次的評価項目では、プラセボと比較して全体的な統計的有意差を示すことはできませんでした。

イーライリリーは用量依存的な肝線維化の改善傾向を見たものの、統計的に有意な差は見られませんでした。この結果は、NASH 治療薬の開発において重要な進展を示しています。

チルゼパチドが NASH の逆転において主要評価項目を満たしたことは、この疾患の治療における新たな可能性を開くものです。しかし、肝線維化の減少に関しては、さらなる研究が必要であることを示唆しています。

GLP-1 は体重を減らし、T2D を治療し、NASH も解決するのか?

イーライリリーのチルゼパチドのような GLP-1 療法は、体重を減らし、2型糖尿病(T2D)に有効であることが示されている。更に、これらの治療薬がNASHの治療にも有効である可能性がある。より多くの患者が T2D や肥満に GLP-1 を使用するようになれば、NASH に特化した薬剤の必要性はかなり低くなるのでしょうか?

GLP-1 療法が NASH を効果的に治療できるようになれば、NASH 特異的薬剤の需要は減少する可能性がある。しかし、NASH は複雑な疾患であり、GLP-1 療法と NASH 特異的薬剤の両方を含む多面的な治療アプローチが必要になる可能性があることに留意する必要がある。

NASH 治療薬の分野でも、GLP-1 で市場を席巻するイーライ・リリーやノボ・ノルディスクが優位に立つのか?

2023年以降、GLP-1 減量薬で市場を席巻するイーライ・リリーとノボ・ノルディスクが優位に立つのか?それとも NASH 治療薬の市場はまだ大きいままなのか?

イーライ・リリーやノボ・ノルディスクのような大手製薬会社が GLP-1 領域で優位に立つことは、特に彼らの治療薬が NASH に有効であると証明されれば、大きな意味を持つかもしれない。

しかし、NASH 市場は非常に大きく、多くの患者が治療を必要としている可能性があり、異なる治療アプローチを提供する他の企業にもまだ大きなチャンスがあるかもしれない。

一部ファンドの動くを見ていると、イーライリリイのチルゼパチドが NASH 有効性データが発表された後に、NASH の治療薬を開発している Akero Therapeutics (AKRO) の持ち株をバッサリと減らしたファンドも目にしました。

その後 NASH 治療薬を開発するバイオ企業の株価は戻し基調にありますが、引き続き GLP-1 と NASH の臨床データを追いかけていく必要があるでしょう。

NASH 治療市場は大きい

一方で、LifeSci KOL は最終的に複数の勝者が存在する余地があると予想しています。NASH 治療市場が非常に大きく、疾患が進行する性質を持つため、異なる治療機序を持つ複数の薬剤が市場で成功する可能性があると言います。

KOL の見解によれば、NASH 治療分野では、異なる作用機序や治療アプローチを持つ複数の薬剤が成功を収める可能性に触れています。NASH 治療薬の開発が競争的である一方で、多様な治療オプションが必要とされる複雑な疾患領域であることも覚えておきましょう。

現在 NASH (非アルコール性脂肪肝炎) 専用に FDA (米国食品医薬品局) から承認された治療薬はありません。NASH は肝臓に脂肪が蓄積し、炎症や肝細胞の損傷を引き起こす状態で、重症化すると肝硬変や肝臓がんに進行する可能性があります。

この疾患に対する治療法の開発は活発に行われており、多くの製薬会社が様々な段階の臨床試験を進めています。

ミッドキャップの NASH 企業

企業名 ティッカーコード パイプライン 治療対象 フェーズ 予定リードアウト
Madrigal Pharmaceuticals MDGL Resmetirom (THR-b) 経口 NASH PDUFA 3/14/24
Viking Therapeutics VKTX 2809 (THR-b) 経口 NASH Ph2 1H 24
Viking Therapeutics VKTX 2735 (GLP-1-GIP) 注射剤 肥満症 Ph2 1H 24
Viking Therapeutics VKTX 2735 (GLP-1/GIP) 経口剤 肥満症 Ph1 1H 24
Akero Therapeutics AKRO Efruxifermin (FGF-21) 注射剤 NASH Ph2B 第1四半期 24年
89bio ETNB ペゴザフェルミン (FGF-21) 注射剤 NASH Ph3 24年上期開始
Terns Pharmaceuticals TERN 501 (THR-b) 経口剤 NASH Ph2b 24年開始
Terns Pharmaceuticals TERN 601 (GLP-1/GIP) 経口剤 肥満症 Ph1 2H 24 開始
Inventiva IVA Lanifibranor (Pan-PPAR) 注射剤 NASH Ph3 1H 26 – 読み出し (Ph2 Q1 24 読み出し)

BPIQ の創業者で、バイオテクノロジー特許弁護士で博士のエマニュエル・バッキアーノ氏は、X のポストでミッドキャップの NASH 企業と開発中のパイプラインを紹介しています。

MDGL ($4b mc/$4b ev)
– レスメチロム (THR-b) 経口 PDUFA NASH (3/14/24)

VKTX ($2.5b/$2.1b)
– 2809 (THR-b) 経口 Ph2 NASH (1H 24 リードアウト)
– 2735 (GLP-1-GIP) 注射剤 Ph2 肥満症 (1H 24 リードアウト)
– 2735 (GLP-1/GIP) 経口剤 Ph1 肥満症(1H 24 リードアウト)

AKRO ($989m/$402m)
– Efruxifermin(FGF-21)注射剤 NASH Ph2B(第1四半期 24年読み切り)

ETNB ($758M/$334M)
– ペゴザフェルミン(FGF-21)注射剤 NASH Ph3(24年上期開始)

TERN ($332m/$67m)
– 501 (THR-b) 経口剤 Ph2b NASH (24日開始)
– 601 (GLP-1/GIP) 経口剤 Ph1 肥満症 (2H 24 開始)

IVA ($191m/$191m)
– Lanifibranor (Pan-PPAR) 注射剤 NASH Ph3 (1H 26 – 読み出し) (Ph2 Q1 24 読み出し)

Madrigal が開発中のレスメチロム、フェーズ3で NASH 治療の分野において歴史的な一歩

Madrigal Pharmaceuticals (マドリガル・ファーマシューティカルズ / MDGL) が開発中の Resmetirom (レスメチロム) は、肝線維化を伴う NASH (非アルコール性脂肪性肝炎) 患者を対象とした第3相臨床試験で、NASH 治療の分野において重要な進展を遂げました。The New England Journal of Medicine 誌の研究要約によると、

臨床問題の項では、NASH について、肝細胞障害と炎症を伴う5%以上の肝脂肪症(肝臓の脂肪)を特徴とする進行性肝疾患であると説明している。現在、NASHに対して承認された薬理学的治療法はない。

臨床試験のデザインは、生検で NASH と確認された肝線維症患者を対象とした無作為二重盲検プラセボ対照試験である。試験では、2種類の用量のレスメチロム (80mgと100mg) がプラセボと比較された。52週目の主要評価項目は、線維化の悪化を伴わない NASH 消失とNAFLD活動性スコアの悪化を伴わない線維化の1ステージ以上の改善であった。

その結果、レスメチロムの両用量はプラセボと比較して主要評価項目の達成に有効であった。安全性プロファイルによると、ほとんどの患者が軽度または中等度の有害事象を経験しており、下痢と吐き気が最も多く認められた。重篤な有害事象の発生率は全群で同様であった。

画像には、線維化ステージ(線維化なしのF0から肝硬変のF4まで)と主要評価項目の結果のグラフが含まれている。また、プラセボ群とレスメチロム群の NASH 消失率、線維化改善率、安全性アウトカム(下痢、吐き気、重篤な有害事象)を比較した棒グラフもある。

限界として、組織学的データと相関する臨床結果データがないこと、肝硬変への進展を含む肝臓関連の転帰を評価するために54ヵ月間試験が継続される予定であることなどが指摘されている。また、参加者の約90%が白人であったため、他の人種または民族グループに対する知見の一般化可能性が制限される可能性があることにも言及している。

要約の結論では、NASH と肝線維症を有する患者において、レスメチロムの1日1回投与は、追跡期間52週におけるNASHの消失と線維症の1ステージ以上の改善に関して、プラセボより優れていたとしている。

線維化、炎症、LDLコレステロール値の低下を指摘し、本試験の良好な成績がNASH治療における重要な成果であることを示唆するものである。この進展は、NASH治療の歴史における画期的な一歩と見なされています。Madrigal は、2024年3月14日に PDUFA 日を迎えます。

GLP-1、NASH 治療薬期待の Viking Therapeutics

特に、直近アウトパフォームしているのが、Viking Therapeutics (VKTX) です。同社は複数の GLP-1 のパイプラインを抱えており、買収期待値が高いことで連日上昇中です。

Viking Therapeutics が開発を進めている GLP-1 薬のパイプライン「VK2735」は、フェーズ2のデータによると、投資家の間でイーライリリーよりも優れている可能性があるとも言われています。同社は現在、1日1錠の錠剤と週1回の注射の2種類の減量薬の開発に取り組んでいます。

Viking は、週1回の注射の中間試験の結果が第1四半期末までに結果が出るとしており、その発表が待たれています。アナリストは、全体として、肥満症と NASH (非アルコール性脂肪性肝炎) 領域における複数の重要なデータが発表されることで、Viking のカタリストは強固なものになると見ている。

Viking は、肥満治療でイーライリリーと同じようなアプローチを取っていると言います。GLP-1 や GIP という特定の体内受容体に作用する薬を開発しており、これはイーライリリーが糖尿病や体重減少のために週に1回注射するチルゼパチド (商品名モンジャロやゼップバウンド) と同じような効果を目指しています。

しかし、Viking はさらに一歩進んで、同じ効果の薬を毎日飲むタイプの錠剤として作ろうとしています。一方で、イーライリリー社が作っている毎日使う薬オルフォグリプロンは、GLP-1 受容体にだけ作用します。

この状況をバイオ分野に精通した投資家は、肥満薬で市場をリードするイーライリリーやノボ・ノルディスクのような大手製薬会社の状況を一変させる可能性があることに言及しています。

もし Viking が現在臨床中の「VK2735」フェーズ2のマイルストーンを達成させた場合、更なる株価の上昇が期待されます。鋭い投資家は、Viking が高価になる前に、ファイザーかメルクが買収するのではないか?という予想もあり、見逃せない展開となっています。

製薬大手ロシュの印象的なパイプランの買収・パートナーシップから見る事業開発

昨年スイスの製薬大手、ロシュが GLP-1 肥満薬を開発するカーモットを37億ドルで買収したように、まだ肥満薬のパイプラインを持っていない、又は開発が頓挫してしまったファイザーなどは、自社のパイプラインに加えたいのではないでしょうか。

今後の展開も注目していきます。

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