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中国からパイプラインの権利を取得して世界で展開するケースが増加

中国からパイプラインの権利を取得して世界で展開するケース

近年バイオテクノロジー業界では、中国からパイプラインの権利を買い付けて世界で展開する、という傾向が良くあるような気がします。先日も、2024年10月1日に発表された「Kailera Therapeutics が4億ドルのシリーズA資金を調達し、肥満および関連疾患に対する次世代治療薬ポートフォリオを推進」というニュースの中で、

Kailera は2024年5月、世界的な大手製薬会社である江蘇恒瑞医薬有限公司(恒瑞)から、中国国外における4つの代謝性疾患治療薬ポートフォリオの独占的開発・商業化権を取得した。

Kailera の最先端プログラムである「KAI-9531(中国ではHRS9531として開発中)」は、注射可能な GLP-1/GIP(グルカゴン様ペプチド-1、グルコース依存性インスリン分泌促進ポリペプチド)受容体デュアルアゴニストであり、中国における肥満症および2型糖尿病の臨床第2相試験で説得力のある結果を示した。

とあります。近年、中国のバイオテクノロジーや製薬企業が世界的なパートナーシップやライセンス契約を通じてパイプラインを海外に展開するケースが増えています。特に、中国で開発された医薬品や治療法をグローバル市場に進出させる動きが顕著です。

その背景には、中国の膨大な人口を活用した豊富なデータ、バイオテクノロジー分野の成長があるものだと思います。実際に中国の製薬企業がグローバルに展開して成功を収めた事例として、いくつかの著名なケースがあります。

百済神州(BeiGene)

百済神州は、中国を拠点にするバイオテクノロジー企業で、抗がん剤を中心としたパイプラインを持っています。同社は米国と欧州で製薬大手とパートナーシップを結び、特に免疫チェックポイント阻害薬「tislelizumab (ティサンレリズマブ)」のライセンスを展開し、国際的な市場に進出しています。

2021年1月、百済神州はスイスの製薬大手ノバルティスと戦略的パートナーシップを締結しました。この提携により、ノバルティスはティサンレリズマブの米国、欧州、カナダ、そして日本以外のその他の国々での開発・商業化権を取得しました。これにより、ティサンレリズマブの国際市場への進出が大きく加速しました。

百済神州は米国のバイオテクノロジー企業アムジェンとも提携し、中国市場での製品開発と商業化を共同で行っています。「ティサンレリズマブ」は、さまざまながん種に対する治療薬として開発が進められており、中国では複数の適応症で承認を受けています。

国際的には、多くの臨床試験が進行中であり、米国FDAや欧州EMAへの承認申請も視野に入れています。抗PD-1抗体薬である「TEVIMBRA®(tislelizumab)」は、2024年10月4日に米国で商業販売開始されています。

Innovent Biologics

Innovent Biologics(信達生物製薬)は中国のバイオ医薬品企業であり、抗PD-1抗体薬「Sintilimab(商品名:達伯舒)」を開発しました。2015年、Innoventは米国の大手製薬企業であるEli Lilly(イーライリリー) と戦略的提携を結びました。この提携により、両社は「Sintilimab」の共同開発と商業化を進め、米国市場への進出を目指しました。

このパートナーシップは、中国で開発されたバイオ医薬品が世界的に認知される一助となりました。特に、「Sintilimab」は中国国内で複数のがん種に対する適応症で承認を取得しており、その有効性と安全性が評価されています。

しかし、米国市場への参入に関しては課題もありました。2022年初頭、Eli Lilly と Innovent は、非小細胞肺がんの一部に対する治療薬として「Sintilimab」の米国FDA(食品医薬品局)への承認申請を行いました。しかし、FDAは臨床試験データが中国人患者のみを対象としている点を指摘し、米国の患者集団にも適用可能な追加データを要求しました。

この出来事は、中国製バイオ医薬品が国際的な規制基準を満たすためのハードルを示す一方で、中国のバイオテクノロジー産業が国際舞台で存在感を高めている証拠でもあります。Innovent と Eli Lilly の提携は、その象徴的な事例として注目されています。

Zai Lab

Zai Lab は中国のバイオ医薬品企業で、がんや自己免疫疾患の治療薬に特化しています。米国の大手製薬会社と提携し、米国と中国で共同開発や販売を行ってきました。

Zai Lab は、グローバルな製薬企業との戦略的パートナーシップを通じて、最先端の医薬品を中国およびアジア市場に導入しています。提携先には、グラクソ・スミスクライン(GSK)、ノバルティス、アストラゼネカ、イーライリリーなどが含まれます。

これらのパートナーシップにより、Zai Lab は米国と中国の両市場で新薬の共同開発や臨床試験を実施し、商業化を進めています。例えば、がん治療薬や自己免疫疾患の治療薬において、共同研究やライセンス契約を結んでいます。

Zai Lab は、中国のバイオテクノロジー企業として、国際的な製薬会社との提携を通じてグローバル市場での存在感を高めています。がんや自己免疫疾患といった領域での専門性を活かし、米国と中国での共同開発・販売を進めることで、世界的な医薬品企業として成長を続けています。

WuXi AppTec

中国からパイプラインの権利を取得して海外展開したケースの一例として、Arcus Biosciences が WuXi AppTec から抗PD-1抗体薬の権利を取得し、国際的な市場で展開した事例があります。

2017年、Arcus Biosciences は WuXi Biologics から抗PD-1抗体である「zimberelimab (ジンベレリマブ / 開発コード:AB122)」の全世界における独占的な開発・商業化権を取得しました。

「ジンベレリマブ」は、がん免疫療法において重要なターゲットであるPD-1を阻害する抗体薬です。Arcus はこの薬剤を、他の自社開発の免疫療法薬と組み合わせることで、さまざまながん種に対する効果的な治療法を開発しています。

Arcus はジンベレリマブを含む複数の薬剤の臨床試験を米国や欧州で進めています。また、大手製薬企業である Gilead Sciences (ギリアド・サイエンシズ) と提携し、共同開発と商業化を強化しています。

この事例は、中国のバイオテクノロジー企業が開発した有望なパイプラインを海外企業が取得し、グローバルな市場で活用する一例です。これにより、中国の技術と海外の開発・商業化能力が融合し、患者への新たな治療オプションの提供が加速しています。

まとめ : 中国は抗PD-1抗体薬の分野で強い存在感を示す

このように、中国のバイオテクノロジー企業が開発した新薬の権利を欧米の企業が取得し、グローバルな市場で販売や開発を進めるケースが近年増加しています。この流れは、特にがんや自己免疫疾患に関連した治療薬分野で顕著です。

一方で、今年後半に株価が急騰した Summit Therapeutics (SMMT) は、FDAは中国で実施された第3相試験のデータを受け入れないだろう … というような論争がバイオ投資家の間で起こりました。

しかし現実には、Summit は非小細胞肺がん(NSCLC)を対象にプラチナ併用化学療法とイボンスシマブの併用効果を評価する第3相HARMONi臨床試験の登録完了しました。

また、米国食品医薬品局(FDA)は、EGFR変異を有する局所進行性または転移性非小細胞肺がん(NSCLC)患者で、EGFR-TKI療法後に病勢進行を認めた患者を対象に、白金ベースの化学療法との併用でイボンスキマブをファスト・トラック指定しています。

全体的に中国は、抗PD-1抗体薬の分野で強い存在感を示しています。その主要なパイプラインと中国企業についてご紹介します。

– 信達生物製薬(Innovent Biologics)
「Sintilimab」を開発。Eli Lilly (イーライリリー) と提携し、中国国内での承認取得と国際展開を進めています。

– 百済神州(BeiGene)
「tislelizumab (ティサンレリズマブ)」を開発。ノバルティス(Novartis)との提携で、米国や欧州など国際市場への進出を加速。

– 君実生物(Junshi Biosciences)
「toripalimab (トリパリマブ)」を開発。アメリカの Coherus Biosciences (コーヒアス・バイオサイエンシズ) と提携し、米国FDAからの承認を目指しています。

– 恒瑞医薬(Hengrui Medicine)
「camrelizumab (カムレリズマブ)」を開発。中国国内で複数のがん種に対する承認を取得。

抗PD-1抗体薬の需要が急速に拡大しており、中国企業は価格競争力と豊富な臨床データを武器に市場をリードしています。中国企業はグローバルな製薬会社と提携し、臨床試験の国際基準を満たすことで海外市場への進出を図っている。

中国のバイオテクノロジー企業は、最先端の研究施設と人材に積極的に投資してるのも後押ししています。FDAやEMAなどの国際的な規制当局の要求を満たすため、高品質な製品開発と臨床試験を実施しています。

中国企業は国際的な製薬企業と戦略的パートナーシップを結び、共同開発や商業化も数めており、自社開発の抗PD-1抗体薬の権利を海外企業に供与し、収益源を多様化を図っています。