2025年4月10日、米食品医薬品局(FDA)は、新薬開発における動物実験の段階的な廃止を発表しました。これにより、人工知能(AI)や培養細胞などの代替手法が導入される予定です。
FDAはモノクローナル抗体およびその他の医薬品の動物実験要件を段階的に廃止する計画を発表
この発表を受けて、TechBio(テックバイオ)関連企業、ライフサイエンスおよびマテリアルサイエンス分野における計算化学ソフトウェアと創薬のリーディング企業 Schrödinger (シュレーディンガー / SDGR) やAI創薬を目指す Recursion Pharmaceuticals (リカージョン・ファーマシューティカルズ / RXRX) の株価が急騰しました。
Today, the FDA is taking a groundbreaking step to advance public health by replacing animal testing in the development of monoclonal antibody therapies and other drugs with more effective, human-relevant methods.https://t.co/m8vsOah6qx pic.twitter.com/Jkruz8PGV7
— U.S. FDA (@US_FDA) April 10, 2025
トランプ政権で新たに米食品医薬品局(FDA)長官に指名されたマーティン・マカリー長官は、「この取り組みは薬の評価におけるパラダイムシフトを示し、動物の使用を減らしながら、アメリカ人にとって治療法や意味のある治療を加速する可能性を秘めています」と述べています。
この新しいアプローチは、薬の行動や副作用を予測するためのAIベースのモデルや、実験室で作成された人間の臓器に似た構造を使用した試験を含みます。これにより、動物実験の必要性が大幅に減少し、より直接的に人間の反応を観察することが可能になります。
FDAの新方針の背景
これまで、モノクローナル抗体などの新薬を人間で試験する前に、動物実験による安全性確認が義務付けられていました。
しかし、動物実験では人間への影響を正確に予測できない場合があり、時間やコストも膨大です。さらに、動物福祉の観点からも懸念が高まっていました。
動物実験からAI・培養細胞へ
FDAは、モノクローナル抗体療法などの薬剤開発において、従来の動物実験を段階的に廃止し、AIベースのモデルや培養細胞などの実験室環境でのオルガノイド毒性試験 (いわゆるNew Approach MethodologiesまたはNAMsデータ) を導入する方針を示しました。
これにより、薬剤の安全性評価がより迅速かつ費用効率的に行われることが期待されています。また、FDAは今後1年間で、選定された抗体薬開発者に対して非動物ベースの試験戦略を使用するパイロットプログラムを開始する予定です。
この取り組みは、動物実験の必要性を減らし、より倫理的で効率的な新薬開発を促進することを目的としています。FDA が動物実験に代わる「新たなアプローチ手法(NAMs)」には以下が含まれます。
・AIベースの計算モデル
薬物の体内分布や副作用を予測するためのコンピュータシミュレーション。
・人の培養細胞やオルガノイド
肝臓、心臓、免疫系などの人間の臓器を模倣した細胞モデルを使用して、安全性を評価。
・実世界データの活用
他国での人間に関する安全性データを利用して、追加の動物実験を不要にする。
実施計画と規制の変更
FDAの新方針の実施計画と規制の変更は以下の通りです。
・即時適用
新薬の臨床試験申請(IND)において、非動物試験データ(NAMs)の提出が奨励されます。
・パイロットプログラム
今後1年間で、選定された抗体医薬品開発者が非動物ベースの試験戦略を使用することを許可する試験プログラムが開始されます。
・規制上のインセンティブ
非動物試験から得られた強力な安全性データを提出した企業には、審査の迅速化などの優遇措置が提供されます。
期待される利点
今回のFDAの新方針が期待される利点は次の通りです。
・動物福祉の向上
動物の使用を減らし、倫理的な懸念を軽減。
・開発コストと時間の削減
より迅速で効率的な新薬開発が可能に。
・安全性の向上
人間により近いモデルを使用することで、より正確な安全性評価が期待されます。
FDAは、今後1年間で選定された抗体医薬品開発者が非動物ベースの試験戦略を使用することを許可する試験プログラムを開始し、その結果を基に将来の規制変更を検討する予定です。
この取り組みは、公共の健康と倫理の両方にとって有益であると考えられています。
承認までの期間は、従来の13年以上ではなく8年以下に短縮される可能性
Big FDA news: as per ARK's Big Ideas, AI will play a huge role speeding therapies to patients. FDA said yesterday that animal testing will be phased out in favour of AI modelling & lab tests incl. organ-on-chips. We hope directionally this move will benefit humans and animals… pic.twitter.com/EgGF3IGOnY
— Charles Campbell Roberts (@CCRobertsARK) April 11, 2025
ARKのチーフ・インベストメント・ストラテジスト、ユニコーン企業であるゲノミクス x AI 企業 Freenome の共同創設者のチャールズ・キャンベル・ロバーツ博士は今回のニュースを、FDAのビッグニュースと評価し次のように述べています。
これらの変更は、長年にわたる協議を踏まえたものであり、まず(モノクローナル)抗体治療から開始されます。
この選択は部分的に、抗体治療が標的に対して高い精度を持つ傾向があり、体内のさまざまな部位に起こる副作用が比較的少なく、それらを動物実験で事前に評価する必要が低いという理由によるものかもしれません。
最終的には、特にこの動きによって製薬企業や病院のシステム内にある膨大な人間の臨床試験データが活用可能になれば、AIモデルによって人間への臨床試験への進行がこれまで以上に迅速にサポートされる可能性があります。
承認までの期間は、従来の13年以上ではなく8年以下に短縮される可能性があり、これは創薬開発における投資収益率(ROI)を大きく押し上げる要因となるでしょう。
FDA の新たな転換期となるか?
今回の発表は、トランプ政権下でマーティン・マカリー氏がFDA長官に就任して最初の大きな変革だと思います。マーティン・マカリー氏の経歴を振り返ると、マカリー氏はジョンズ・ホプキンズ大学の外科医であり、医療政策の専門家としても知られています。
彼は過剰な医療介入や不適切な治療の蔓延に対して批判的な立場を取っており、FDAの官僚的な手続きを簡素化し、米国民が適切な医療を受けられるよう改革を進める意向を示しています。
また、COVID-19 パンデミック時には、自然免疫の重要性を強調し、ワクチン接種の義務化に反対する立場を取っていました。彼の任命は、今後 FDA の方向性に大きな影響を与える可能性があります。
ドナルド・トランプが大統領に再選してから、バイオセクターは最もアンダーパフォームしているセクターです。バイオ投資家は、バイオ指数である XBI はどこが底なんだ?と落胆が続いています。
今回の FDA の新方針が新たな材料になるのか、はたまた金利の上昇や景気の曲がり角に引き続きこのセクターがアンダーパフォームを続けるのか?先行きは不透明なままです。