Google の元CEO兼会長であり、新興バイオテクノロジーに関する国家安全保障委員会委員を務める Eric Schmidt (エリック・シュミット) 氏が、「バイオテクノロジーの ChatGPT の瞬間に備える必要がある」ことについて言及しています。
https://t.co/0WRGl23BfK
Biotech is just about to happen at a new and much faster scale !— Eric Schmidt (@ericschmidt) April 17, 2024
このタイトルを読んだだけでピンと来る方も多いと思いますが、2022年12月に公開された ChatGPT を筆頭とした生成AIが世界を大きく変えつつあるように、バイオテクノロジー、生物学 (合成生物学) の分野でもその瞬間が訪れようとしています。
エリック・シュミット氏の Time 紙の記事では、2023年の重要なマイルストーンとして次の3点をポイントにあげています。
・米国が初めて実験室で育った肉の生産と販売を承認
・グーグル・ディープマインドのAIが200万以上の新素材の構造を予測し、チップやバッテリーに使用できる可能性が出てきた
・キャスジェビーがCRISPRを使用した初の商業的遺伝子編集治療を承認
また、エリック・シュミット氏は、NVIDIA のCEOジェンスン・ファン氏と全く同じことを言っています。
もし私が今の若者だったら、生物学は本当に最も魅力的な勉強のひとつだろう。
つまり、Google や NVIDIA など既に AI 分野で生物学の世界に進出している世界を席巻する時代の先駆者には、次のブレイクスルーが目に見えており、それが起こるのは時間の問題ということだと思います。
NVIDIA は2024年の2月に創薬AIを手掛ける Recursion Pharmaceuticals (RXRX) に投資したことが話題となりましたが、NVIDIA も生物学の分野にかなり進出しています。
NVIDIA が進めるテックバイオ、バイオファーマと取引
🤖🧬Techbio deals with biopharma and $NVDA pic.twitter.com/EvpMBzAv43
— BowTiedBiotech 🧪🔬🧬 (@BowTiedBiotech) March 29, 2024
上記の画像は、NVIDIA のベンチャーキャピタル部門 NVentures が行っているテックバイオ、バイオファーマ部門への投資内容です。生物学の新興企業から、合成生物学、AI創薬、製薬大手などバランスの取れた投資を行っています。
– Inceptive との取引 (2023年9月)
NVentures が生物学的ソフトウェアを開発する Inceptive のシリーズAラウンドに1億ドル投資し、Inceptive は NVIDIA の最新プラットフォームとチップへのアクセスを得ています。
– Genesis Therapeutics との取引 (2023年9月)
NVentures が GEMS (Genesis Exploration of Molecular Space) と呼ばれる独自の最先端生成・予測AIプラットフォームを使用して、低分子創薬を加速・最適化し、困難な標的および/または治療不可能な標的に対する新規のファースト・イン・クラスおよびベスト・イン・クラスの低分子医薬品の創薬を開発する Genesis Therapeutics (ジェネシス・セラピューティクス) のシリーズCラウンドの一部として2億7300万ドルを投資。
– Recursion Pharmaceuticals との取引 (2023年7月、2024年1月)
NVIDIA が合成生物学、AI創薬を手掛ける Recursion Pharmaceuticals に5000万ドルを投資し、技術協力を行い、Recursion の特定のモデルを NVIDIA の BioNeMa プラットフォームで利用できるようにする。
– Novo Nordisk Foundation との取引 (2024年3月)
NVIDIA と Novo Nordisk Foundation が協力して、デンマークにスーパーコンピュータを構築し、2024年後半に稼働させる。
– AMGEN との取引 (2024年3月)
NVentures が AMGEN のシードファイナンスラウンドの一部として3500万ドルを投資。
– Genentech との取引 (2024年1月)
NVIDIA と Genentech (ジェネンテック) が協力して、NVIDIA の DGX SuperPOD 技術を活用して、創薬のためのヒトデータ分析を行う。Genentech は NVIDIA のDGXクラウド上でモデルを最適化し、NVIDIA からコンピューティングに関する専門知識を提供される。
これらの取引は、NVIDIA がバイオテクノロジー業界への進出を押し進めていることを物語っています。NVIDIA は、AIと機械学習技術をバイオテクノロジー企業に提供することで、創薬や疾患診断の進歩に期待しています。
NVIDIA のAI技術は、新しい薬剤や治療法の発見と開発を加速するために使用でき、NVIDIA の機械学習技術は、画像データから病気をより正確に診断するために使用できます。
また、NVIDIA の計算能力は、大規模な生物学的データセットを分析するために使用でき、NVIDIA のバイオテクノロジーへの進出は、更なる大きな成長機会となる可能性があります。
Google (GV) もバイオファーマに巨額の投資をしている
実はあまり知られていませんが、Google のベンチャーキャピタル部門 GV を通してバイオファーマに巨額の投資をしています。GV のバイオテクノロジー投資は、2009年から治療薬、診断、医療機器、ヘルステックのスタートアップに投資しています。
GV のバイオテクノロジー企業への投資に非常に積極的で、特にヘルステック、デジタルヘルス、AI/ML技術、遺伝子・細胞療法などが注目されています。これらの技術は医薬品開発や治療法の革新に寄与し、GV はこれらの領域でのリーダーとして位置づけられています。
GV のポートフォリオには、Verve Therapeutics、ROME Therapeutics、Prime Medicine、Flatiron Health、Aspire Health、One Medical など多数のスタートアップが含まれており、それらはオンコロジー(癌治療)、神経科学、希少疾患など、さまざまな治療領域にわたっています。
また上記の図は、最も多くヘルスケア部門への投資をしている投資家を表していますが、GV は全体、バイオファーマ分野において、ライフサイエンスに特化したファンド、バイオファンドの巨人 Orbimed や Deerfield よりも投資額が多いのです。
GV のライフサイエンス部門への投資は、こちらで詳しく見ることができます。
Google DeepMind は最新のAIモデルである AlphaFold 3 を公開
Thrilled to announce AlphaFold 3 which can predict the structures and interactions of nearly all of life’s molecules with state-of-the-art accuracy including proteins, DNA and RNA. Biology is a complex dynamical system so modeling interactions is crucial https://t.co/Gs4GoOB3fD pic.twitter.com/QWVI71daNe
— Demis Hassabis (@demishassabis) May 8, 2024
Google DeepMind は2024年5月8日、最新のAIモデルである AlphaFold 3 を公開しました。このモデルは、タンパク質、DNA、RNA、リガンドなどの生命分子の構造と相互作用を予測し、科学の理解を変革することを目指しています。AlphaFold 3は、既存の予測方法に比べて、タンパク質と他の分子タイプとの相互作用を少なくとも50%向上させ、いくつかの重要なカテゴリーで予測精度を倍増させています。
このモデルは、AlphaFold 2 の基盤を活用しており、これまで数百万人の研究者が利用してきました。これにより、マラリアワクチン、がん治療、酵素設計などの分野での発見が進んでいます。AlphaFold 3 は、これまでのタンパク質に限定されず、生命の分子全般に対応することが可能です。これにより、バイオ再生可能材料の開発、耐性作物の育成、薬剤設計やゲノム研究の加速など、さらに多くの革新的な科学が解き放たれる可能性があります。
Isomorphic Labs では、AlphaFold 3 を活用して、新しい病気のターゲットに対するアプローチの理解を深め、既存のターゲットに新たな方法で取り組むことを支援しています。また、AlphaFold Server は、科学者が非商用研究に無料でアクセスできるプラットフォームを提供しており、世界中の研究者が容易に構造をモデル化できるようにしています。