キメラ抗原受容体(CAR)ナチュラルキラー(CAR NK)細胞療法は、腫瘍学や自己免疫疾患を含む様々な医療分野において、引き続き有望な結果を示しています。最近の研究では、難治性の全身性エリテマトーデス(SLE)の治療におけるその可能性が示されています。
CAR-NK細胞療法の特徴
CAR-NK細胞は、CAR-T細胞と比較してサイトカイン放出症候群(CRS)や神経毒性のリスクが低いとされています。また、同種異系移植が可能であり、患者ごとのカスタマイズが不要な「オフ・ザ・シェルフ」製品としての開発が期待されています。
CAR-T細胞療法は、SLEなどの自己免疫疾患に対しても有望な結果を示しています。例えば、CD19を標的としたCAR-T細胞療法により、重症のSLE患者が寛解状態に達したとの報告があります。
最近の研究動向
Nkarta (NKTX) は、ループス腎炎を対象としたNKX019の臨床試験を開始し、最初の患者がスクリーニング段階に入っています。さらに、他の自己免疫疾患への適応拡大も計画されています。
製造技術の向上: 京都大学iPS細胞研究所(CiRA)では、同種iPS細胞由来のCAR-NK細胞の治験薬製造に関する共同研究が進められており、臨床応用に向けた取り組みが加速しています。
自己免疫疾患におけるCAR NK細胞
最近の臨床試験では、重症で難治性のSLE患者を対象に、同種異系のCD19を標的とするCAR NK細胞の使用が調査されました。この研究では、50%の患者が寛解し、75%の患者が低疾患活動状態に達したことが報告されており、有害事象は最小限に抑えられました。
CAR-NK細胞療法の利点としては、CAR-T細胞療法と比較してサイトカイン放出症候群(CRS)や神経毒性のリスクが低いとされています。また、NK細胞は同種異系移植が可能であり、患者ごとのカスタマイズが不要な「オフ・ザ・シェルフ」製品としての開発が期待されています。
臨床段階のバイオ企業
・Fate Therapeutics (FATE)
Fate Therapeutics は、iPSC(人工多能性幹細胞)由来のCAR-NK(キメラ抗原受容体ナチュラルキラー)細胞療法のパイプラインを推進しているバイオ企業で、特にがん治療に注力しています。
主な候補薬には「FT536」や「FT576」があり、これらは複数のがん種を標的に開発されています。Fate のiPSC由来のCAR-NK細胞は、「オフ・ザ・シェルフ」(即時利用可能)として、患者個別のカスタマイズを不要にし、より迅速に治療を提供できることが期待されています。
さらに、これらの治療法は、腫瘍の免疫逃避メカニズムを克服するよう設計されており、従来の治療に比べて強化された抗腫瘍活性を示すことが目指されています。また、Fateは複数のコスト削減技術や製造技術を活用し、CAR-NK細胞療法の効率的な量産体制の確立も進めています。
・Nkarta Therapeutics (NKTX)
Nkarta Therapeutics は、主に血液悪性腫瘍に対するNK細胞療法の開発に注力しています。「NKX101」と「NKX019」は、血液がん(特に急性骨髄性白血病やリンパ腫)を標的とする候補薬です。
近年、Nkarta は戦略転換を行い、自己免疫疾患への適応拡大にも重点を置くようになりました。これは、NK細胞療法が自己免疫疾患に対しても有効である可能性が示唆されたことを受けたもので、新しい適応症候補としてSLE(全身性エリテマトーデス)などが検討されています。
これにより、血液がん以外の分野にも積極的に進出する計画が進められています。
・Artiva Biotherapeutics (ARTV)
Artiva Biotherapeutics は、固形腫瘍および血液がんの両方を対象とする即時使用可能なCAR-NK細胞療法を開発しています。特に「オフ・ザ・シェルフ」アプローチにより、治療の拡張性と迅速な供給を目指しています。
Artiva の治療は、複雑な個別細胞加工が不要で、患者の負担を減らし、治療のスピードを向上させることが特徴です。Artivaは、大規模生産とコスト効率に優れた製造技術を開発しており、より多くの患者に経済的で効果的な治療オプションを提供することを目指しています。
・Century Therapeutics(IPSC)
Century Therapeutics は、iPSC由来の同種細胞療法の開発を行っており、固形腫瘍および血液悪性腫瘍の両方を標的にしています。同社は、CAR-NK細胞だけでなく、CAR-T細胞も含むiPSC由来の治療オプションを幅広く開発し、がん治療の選択肢を拡充することを目指しています。
また、Century は、治療の均質性と再現性を維持するために先端技術を駆使し、安全で効率的な細胞治療を提供することに注力しています。Century のアプローチは、CAR-NK細胞療法を「オフ・ザ・シェルフ」として提供し、将来的にはより多くの患者に高品質な治療を低コストで提供することを目指しています。
がん治療におけるNK細胞の課題
ナチュラルキラー(NK)細胞のがん治療における臨床的検証は限定的であり、多くの同種(アロ)細胞療法企業は自己免疫疾患に軸足を移しています。このシフトに寄与する要因はいくつかあります。
・固形腫瘍における限定的な有効性
NK細胞は固形腫瘍への浸透と腫瘍微小環境内での活性維持に課題があり、これががん治療試験における有効性に影響を与えています。
・臨床的ブレイクスルーの欠如
NK細胞療法は初期の有望な結果にもかかわらず、血液がんのCAR-T療法とは異なり、複数の種類のがんにおいて一貫した堅実な臨床結果をまだ示せていません。
・CAR-T療法およびTIL療法との競合
CAR-T療法およびTIL療法は特定のがんにおいてより確立された有効性を示しており、NK細胞療法が同等の成功率を達成できなければ、その地位を確立することは困難です。
自己免疫疾患へのシフト
自己免疫疾患市場は大きく、多くの疾患が効果的な治療法を欠いているため、臨床的成功を求める企業にとって魅力的な分野となっています。
自己免疫疾患では、NK細胞は免疫反応の調整により適している可能性があり、腫瘍への浸透と持続性は、腫瘍学ほど強固である必要がない可能性があります。
しかしながら、ご指摘の通り、自己免疫疾患における同種療法の差別化は依然として不明確です。多くの企業は初期段階にあり、明確な臨床的差別化がないまま、競争環境は急速に拡大しています。
NK細胞療法は腫瘍学において困難に直面するかもしれませんが、自己免疫疾患における免疫調節の可能性は依然として価値があることが証明される可能性があります。
まとめ
CAR NK細胞療法は、がんや自己免疫疾患におけるその有効性を探る臨床試験や企業の取り組みが継続されている、活気のある研究開発分野です。
CAR-NK細胞療法は、SLEを含む自己免疫疾患の新たな治療法として期待されており、今後の臨床試験や研究の進展することで、その有効性と安全性がさらに明らかになることが期待されます。
しかし、大きな差別化と臨床的検証が明らかになるまでは、この転換は革新的というよりも投機的に見えるかもしれません。