私は上場している臨床バイオ企業へ投資する際に、主要なバイオファンドが購入/保有した銘柄 (臨床バイオ企業) の購入日や保有率に注目するようにしています。
というのもバイオファンドや投資会社が特定のバイオ企業の株式を一定割合以上保有することには、いくつかの意味合いや規制が関わっているからです。
特に20%や40%といった高い割合の保有は、企業に対する信頼や強気な見方を示す可能性がありますが、単純に株式保有比率が高いだけで企業の見通しを判断することはできません。以下に、バイオファンドによる保有率を見る際のポイントを解説します。
5%以上保有した場合は、SEC 13D/13G の報告義務が応じる
米国証券取引委員会(SEC)の規制では、ファンドがある企業の株式を5%以上保有した場合、13D(アクティブ投資)または13G(パッシブ投資)の報告義務が発生します。保有してから10日以内に書類の提出が求められます。
20%の保有割合の意味合い
バイオファンドがある企業の株式を20%以上保有した場合は重要で、「支配株主」として扱われる可能性もあります。つまり買収や経営への影響力を強く持つ可能性があると判断される場合があります。
このように一定の割合を超えると、企業の支配権を得ようとしていると見なされることがあり、証券取引所規則やSEC(米国証券取引委員会)のさらなる監視対象となり、特定の取引や提携に関する制限や手続きが必要になることがあります。
そのためファンドによっては、ある企業に対して強くの見方をしたとしても、このような閾値があるため、ぎりぎりの19.9%の保有止めるなどのケースも多々見受けられます。
これは正に、20%以上の株式を保有すると追加の規制や義務が発生するためです。20%以上の保有は、その投資ファンドが企業の将来性に対して強い期待を抱いている証とも考えられます。また、経営に対して発言力を持つ可能性が高まり、企業戦略に影響を与える場合もあります。
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40%保有のケース
今年 (2024年)、私が目にした保有率で気になったのは、7月に Artiva Biotherapeutics (ARTV) が IPO した際に RA Capital の保有率が40%を超えていたことです。
40%といった割合は、事実上の支配株主と見なされることがあり、重要な戦略的決定に影響を与えることができる立場になります。例えば、RA Capital が Artiva Biotherapeutics の40%を保有しているというのは、極めて強い信頼や期待を示していると考えられます。
その背景には、Artiva Biotherapeutics のナチュラルキラー(NK)細胞療法の分野における潜在能力に対する RA Capital の強い確信を反映しています。この高い所有権比率は、RA Capital が同社の長期的な成功に大きく投資していることを示しています。
これは、有望な初期臨床データと、癌や自己免疫疾患の治療を目的とした Artiva の革新的なNK細胞プラットフォームによるものでしょう。バイオテクノロジー企業への多額の投資で知られる RA Capital は、通常、企業の技術や市場での地位に変革の可能性を見出した場合、大規模な投資を行うことで知られています。
Artiva の GC Lab Cell との戦略的提携は、特にNK細胞製造の規模拡大能力により、その魅力をさらに高めています。これは、RA Capital の長期的な投資アプローチと相まって、Artiva の成長軌道と治療法の商業化に対する強い信念を示しているとも考えられます。
株式保有比率の投資戦略としての解釈
高い株式保有比率は、その投資ファンドが当該企業に強気であることを示す可能性があります。ファンドは通常、広範な調査と分析に基づいて投資を行うため、特に大きな保有比率は企業の製品パイプラインや市場機会に対する高い評価を意味することが多いです。
ただし、高い保有比率には流動性リスクも伴います。特にバイオ株のような流動性の低い株式では、ファンドが大規模に売却する際に市場への影響が大きくなります。このため、ファンドが高い保有率を維持することは、同時にその株をすぐに売る意思が低いことも示唆するかもしれません。
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まとめ
投資ファンドの保有比率が高いことは、その企業に対する強気の姿勢を示すことが多いですが、単に保有比率だけで判断するのは危険です。他のファクター(臨床データ、市場の地合い、ファンドの投資哲学など)も考慮しながら、その投資の背景やリスクを総合的に評価することが重要です。
その一方で、主要なバイオファンドがあるタイミングでいきなり19.9%など、20%の閾値を超えないギリギリの線を攻めてきた場合は、行間を読みあなたも強気に攻めてみるのも一つの手かもしれません。
このようにファンドが保有する比率は、ある意味で市場に対するシグナルですが、それ自体は単なる一つのデータポイントに過ぎません。