以下のグラフは、エバリュエイト・ファーマとウィリアム・ブレア・エクイティ・リサーチによる、2000年に最初の ADC (Analog to Digital Converter) が発売されて以来、がん治療の分野の抗体薬物複合体 (ADC)、放射性医薬品 (RLT)、CAR-T 療法の暦年別世界売上高の比較です。
ちなみに、ADC は、化学療法薬をがん細胞に特異的に届ける方法で、固形がんや血液がんで使用されます。RLTは、放射性物質を利用してがん細胞を破壊する方法で、特に前立腺がんや神経内分泌腫瘍で有効です。CAR-T は、患者自身の免疫細胞を改変してがん細胞を攻撃させる方法で、主に血液がんに対して使用されます。
ADC vs CAR-T vs RLT Global Sales comparison pic.twitter.com/6cTJXKeEMg
— Paras Sharma (@paras_biotech) August 17, 2024
抗体薬物複合体(ADC)
ADC は、特に2015年以降、世界的な売上高で大きな伸びを示しています。ADC の売上曲線は急で、近年の急速な採用と商業的成功を反映しています。2023年までに、ADC の世界売上高は100億ドルを超え、「放射性医薬品」と「CAR-T 療法」を上回ります。
グラフからも分かる通り、ADC の分野は最もホットな領域で、2024年だけでも多くの買収が行われています。例えば、2024年1月8日、Johnson & Johnson (ジョンソン&ジョンソン / JNJ) は、次世代抗体薬物複合体(ADC)を設計・開発する独自の合成生物学的技術プラットフォームを有する臨床段階のバイオ医薬品企業 Ambrx Biopharma (アンブリックス・バイオファーマ / AMAM) を20億ドルで買収しています。
ADC (Antibody-Drug Conjugates、抗体薬物複合体) とは?
ADC は、がん細胞を特異的に標的とする抗体に、強力な化学療法薬を結合させた治療法です。抗体ががん細胞の表面に結合し、化学療法薬が内部に運ばれてがん細胞を破壊します。これにより、正常な細胞へのダメージを最小限に抑えつつ、がん細胞を効果的に攻撃します。
使用例: 乳がん、リンパ腫など
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放射性医薬品 (RLT)
放射性医薬品も、特に2017年頃から成長を遂げています。売上高の伸びは AD Cに比べると緩やかですが、それでも注目に値します。2023年には、ADC よりはまだ少ないものの、放射性医薬品が世界売上高に大きく貢献するようになることが予想されます。
実際に、AstraZeneca (アストラゼネカ / AZN) は2024年3月19日、プレシジョン・メディシンとして次世代ラジオコンジュゲート (RC) の開発に注力する臨床段階のオンコロジー企業 Fusion Pharmaceuticals (フュージョン・ファーマシューティカルズ / FUSN) を買収。
同年5月には、Novartis (ノバルティス / NVO) が Mariana Oncology (マリアナ・オンコロジー) の買収に合意し、放射性リガンド治療パイプラインを強化しました。
このように、次世代ラジオコンジュゲート (従来の抗体薬物複合体 ADC の放射性バージョン) や放射性リガンド治療 (RLT) など、放射性医薬品 (RLT) 分野の買収もホットになっています。
RLT (Radioligand Therapy、放射性リガンド治療) とは?
RLT は、放射性同位元素を標的分子(リガンド)に結合させてがん細胞に直接放射線を届ける治療法です。リガンドが特定のがん細胞に結合し、放射性物質ががん細胞に局所的に放射線を照射し、細胞を破壊します。
使用例: 前立腺がん(例: ルテチウム-177を使用したPSMA療法)、神経内分泌腫瘍など
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CAR-T 療法
CAR-T 療法は、特に2017年以降着実に成長しています。売上高の伸びは顕著ですが、ADC に比べると急成長とは言えません。2023年までに、CAR-T 療法はかなりの進歩を示し、ADC や放射性医薬品の水準に近づきつつありますが、前者2つよりは低成長です。
CAR-T (キメラ抗原受容体T細胞療法) とは?
CAR-T 療法は、患者自身のT細胞を遺伝子改変して特定のがん細胞に対するキメラ抗原受容体(CAR)を発現させる治療法です。これにより、T細胞はがん細胞を特異的に認識し、攻撃する能力を持ちます。
使用例: 血液がん(急性リンパ性白血病、非ホジキンリンパ腫など)。特に血液がんに対する効果が高く、難治性のがんに対しても有効です。
→【関連記事】癌のバイオテクノロジー企業 Arcellx (アーセルクス) とは?
オンコロジー買収の光と影
Oncology M&A deals ranked by size from Barclays. Pretty depressing to see most of these weren't lucrative, many clear disasters… some too early to call though. pic.twitter.com/ffjUbl9cYZ
— Ohad Hammer (@ohadhammer) October 6, 2024
臨床段階のバイオ企業で最も買収が活発なのがオンコロジー領域である一方、買収後に収益が見通せないケースもあるようです。上記はバークレイズによるオンコロジーM&A案件の規模別ランキングです。ある投資家は、これらのほとんどは儲けがなく、多くは明らかに失敗であったと話します。
まとめ
ADC は、その有効性と商業的成功を反映し、世界売上高において支配的な治療法となっており、この分野の買収は盛んに行われています。放射性医薬品と CAR-T 療法も成長していますが、ADC に比べるとペースは遅いです。
しかしこれらの分野は、がん治療領域で大きな可能性を秘めた重要な治療法として台頭してきていることを見ることができます。全体的な傾向として、がん治療においてそれぞれのモダリティがニッチを見出しており、標的治療薬の強力な市場を示しています。
ADC、RLT、CAR-T の全ては、がん治療において非常に重要な役割を果たしている高度な治療法です。それぞれ異なるメカニズムでがん細胞を攻撃しますが、最終的な目標はがん治療の有効性を高め、副作用を減らすことです。