2024年後半、注目バイオ企業のパイプラインとカタリストをご紹介します。ここに記載しているパイプラインとカタリストは個人的に注目しているものをラインナップしています。中にはロングしている銘柄もあります。
カタリストとなるイベントは突然変更されたり、稀にイベント前に臨床開発を中止するなどの不意打ちもありますので注意が必要です。先日私は、Fulcrum Therapeutics の肩甲上腕筋ジストロフィー(FSHD)を対象とした「losmapimod (ロスマピモド)」の第3相REACH臨床試験のトップライン結果を発表で、今後の開発を一時中断というニュースで火傷しました。
当初カタリストとなるフェーズ3のニュースは10月に発表予定でしたが、予定よりも大分早く開発の一時中止がアナウンスされ、株価は大暴落しました。とにかく臨床バイオ企業への投資はハイリスクなため、普通の人は投資しない方が良いです。
2024年後半注目のパイプラインとカタリスト一覧
ティッカー | パイプライン | カタリスト | 時期 |
---|---|---|---|
LRMR | Nomlabofusp | 中間データ | 2024.11.14 |
IOVA | lifileucel | Q3決算 | 2024.10.30 |
ACLX | anito-cel | IMMagine-1 Topline date | 2024年末 : 米国血液学会 (ASH) |
SLDB | SGT-003 | 第1/2相試験段階、3~4人の患者から得られたマイクロジストロフィン発現および機能データ | 2024 4Q |
INZY | INZ-701 | ENPP1欠損症の乳児を対象に第1b相臨床試験中間データ | 2024 4Q |
ALEC | AL002 | ABBVと共同で行われているアルツハイマー病を対象とした第2相試験のデータ | 2024 4Q |
ANRO | ALTO-100 | 大うつ病性障害(MDD)を対象とした第2b相臨床試験 | 2024 4Q |
NMRA | Navacaprant | フェーズ3、KOASTAL-1試験のデータ | 2024 4Q |
ACET | ADI-001 | 6か月間のデータ | 2024 4Q |
CTMX | CX-904 | 第1a相臨床試験のデータ | 2024 4Q |
TARA | TARA-002 | 第2相NMIBC臨床試験初期データ | 2024 4Q |
WVE | WVE-006 | 第1b/2a相試験の結果 | 2024 4Q |
CMPS | COMP360 | COMP360第3相COMP005データ | 2024 4Q |
GHRS | GH001 | 第2b相試験トップラインデータ | 2024 4Q |
CRVO | Neflamapimod | 第2b相試験トップラインデータ | 2024 4Q |
Larimar Therapeutics (LRMR)
Larimar Therapeutics (LRMR) のパイプライン「Nomlabofusp (ノムラボフスプ)」は、FA患者に欠損しているフラタキシンタンパク質レベルを増加させる治療薬を開発しています。
フリードライヒ失調症(FA)は、神経系に損傷を引き起こすまれな遺伝性疾患であり、運動、協調性、バランスに問題が生じます。多くの患者は最終的に車椅子が必要となります。
第II相試験の初期結果では、この治療薬は忍容性が高く、フラタキシンを増加させることが示され、神経機能の改善の可能性が示唆されました。第III相試験が計画されており、その有効性が確認される予定です。
この治療法は、フラタキシン値を代替エンドポイントとして使用することで、迅速なFDA承認を受ける可能性があります。Larimar は、フリードライヒ失調症の治療薬「Nomlabofusp」の中間データを11月14日に発表する予定です。
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Iovance Biotherapeutics (IOVA)
Iovance Biotherapeutics の次のカタリストはQ3の決算です。個人投資家やアナリストは、特に同社の主力製品である悪性黒色腫に対する先進的細胞治療薬「lifileucel (リテールセル)」の進捗状況について注視しています。
また来年発表予定の肺がんデータにも投資家の大きな注目が集まっています。結果が良好であれば、固形腫瘍の治療における細胞療法、特にTIL(腫瘍浸潤リンパ球)療法における Iovance のアプローチが裏付けられることになります。
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Arcellx (ACLX)
Arcellx は年末に発表予定の「IMMagine-1 Topline date」がカタリストになります。Arcellx は、約28億ドルの評価を受けているバイオ医薬品企業で、多発性骨髄腫やその他の疾患に対する細胞療法の開発において大きく前進している。
Arcellx の治療に対する革新的なアプローチ、特にリード候補である多発性骨髄腫の治療を目的とした細胞療法「anito-cel」はアナリストや投資家の注目を集めており、アーセルクスは進化する細胞治療の展望における潜在的なキープレーヤーとして位置づけられている。
再発/難治性多発性骨髄腫を対象とした「anito-cel」を評価するiMMagine-1試験は登録が完了。この試験のトップラインデータは2024年末までに得られ、米国血液学会(ASH)で発表される予定です。
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Solid Biosciences (SLDB)
Solid Biosciences は、小児デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)に対する遺伝子治療薬「SGT-003」の開発を進めています。この治療法は現在、第1/2相試験段階にあり、2024年第4四半期に重要な進展が期待されています。
この試験では、3~4人の患者から得られたマイクロジストロフィン発現および機能データに焦点を当てている。この治療法は、筋肉の機能に不可欠な短縮型ジストロフィン遺伝子を導入することで、DMDの根本原因に対処することを目的としています。
Inozyme Pharma (INZY)
Inozyme Pharma (INZY) は、ENPP1欠損症の治療のための新規酵素補充療法である「INZ-701」の開発を行っています 現在、血管および骨格の発育に影響を及ぼす稀な遺伝性疾患であるENPP1欠損症の乳児を対象に第1b相臨床試験を実施しています。
これらの希少疾患は、大きな市場機会を提供しており、推定では、ENPP1欠損症は5億ドル、PXEは9億ドル、そしてカルシフィラキシーは10億ドルの市場規模が見込まれています。
2024年に期待される主な推進要因は、特に過小評価されているPXEとカルシフィラキシーの分野において、これらの機会のリスクを軽減し、20億ドルの市場規模の可能性を示しています。2024年第4四半期に中間データが発表される予定。
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神経系注目のパイプライン
以下のパイプラインは、今後3か月以内に発表される主な神経疾患の臨床試験データ
Alector (ALEC)
Alector は、ABBV (アッヴィ) と共同で、TREM2に対するモノクローナル抗体である「AL002」の開発を進めています。
この治療法は、脳内の免疫細胞の活性を調節する上で重要な役割を果たす TREM2 (Triggering Receptor Expressed on Myeloid cells 2) を標的としており、現在、アルツハイマー病を対象とした第2相試験が進行中です。2024年Q4にデータが発表される予定です。
Alto Neuroscience (ANRO)
Alto Neuroscience は、BDNF調節薬である「ALTO-100」を大うつ病性障害(MDD)を対象とした第2b相臨床試験で開発しています。
この試験では、脳機能と精神衛生に重要な役割を果たす脳由来神経栄養因子(BDNF)のシグナル伝達を増強する「ALTO-100」の潜在的可能性の解明に焦点を当てています。2024年の第4四半期に主要な結果が得られる見込みです。
2024年10月22日、同社はALTO-100を大うつ病性障害の治療薬として評価するフェーズ2b試験のトップライン結果を報告しました。
ALTO-100による治療は、記憶ベースの認知バイオマーカーを持つ患者において、プラセボと比較して抑うつ症状の改善を示さなかったことが報告され株価はアフターマーケットで -63% 暴落しました。
Neumora Therapeutics (NMRA)
Neumora Therapeutics は、大うつ病性障害(MDD)を対象とした第3相試験である KOASTAL-1 で、κオピオイド受容体拮抗薬である「Navacaprant (NMRA-140)」の開発を行っています。
202年第4四半期に「Navacaprant」の有効性と安全性を評価するデータを発表する予定です。「Navacaprant」は、κオピオイド受容体拮抗薬として、気分調節と情動反応に対処することで、大うつ病の治療に新たなアプローチを提供することを目指しています。
この試験で良好な結果が得られれば、大うつ病治療の展望に大きな影響を与える可能性があります。
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Voyager Therapeutics (VYGR)
Voyager Therapeutics にとって今後重要なイベントは、10下旬から11月上旬にかけて開催される CTAD24 (アルツハイマー病臨床試験2024) 会議であり、特にアルツハイマー病治療の開発に関して重要なものとなることが予想される。
アルツハイマー病の研究において TAU は重要なターゲットであるため、TAU タンパク質をベースとした治療法に関する UCB との Voyager の提携は、特に注目に値するでしょう。
このイベントは、アルツハイマー病分野における Voyager の進捗状況に関する貴重な洞察と最新情報を提供する可能性があります。
Adicet Bio (ACET)
Adicet Bio は、マントル細胞リンパ腫(MCL)の治療におけるCAR-T細胞療法「ADI-001」の開発を進めている 第1相試験では有望な結果が示されており、2024年第4四半期に予定されている6か月間のデータは、同社にとって重要な推進力となることが期待されています。
腫瘍を標的とするファースト・イン・クラス、オフ・ザ・シェルフ療法となる可能性を秘めた「ADI-001」は、MCLの治療に大きな期待が寄せられています。
CytomX Therapeutics (CTMX)
CytomX Therapeutics は、EGFR固形腫瘍を標的とするProbody治療薬である「CX-904」の開発を進めています。この治療法は現在、第1a相臨床試験の段階にあり、次の大きな転換点として2024年第4四半期にデータが出る予定です。
「CX-904」は、さまざまな固形腫瘍で一般的に過剰発現しているEGFR経路を標的とすることで、がん治療の精度を高めるように設計されています。
Protara Therapeutics (TARA)
Protara Therapeutics は、特にレア疾患と腫瘍学の治療に注力しているバイオ企業です。その中核パイプラインの1つである「TARA-002」は、膀胱がんの一種である非筋層浸潤性膀胱がん(NMIBC)に対する治療として開発されています。
「TARA-002」は、OK-432(ピシバクチン)と呼ばれる微生物製品の再構成型で、免疫療法として開発されています。OK-432は、免疫系を刺激することで腫瘍細胞を標的とする作用を持ち、既に他の適応症で使用されています。
Protara は、この製品を改良し、NMIBCの治療に向けて「TARA-002」を開発中です。NMIBCは膀胱内に限局する腫瘍で、再発率が高く、免疫療法による治療の可能性が注目されています。
「TARA-002」は現在、安全性と有効性を評価する第2相臨床試験を行っており、2024年Q4に初期データが公表される予定です。データには、治療を受けた患者が6ヶ月間の経過観察の中でどのような反応を示したかが含まれます。
Wave Life Sciences (WVE)
Wave Life Sciences は、遺伝子サイレンシングやRNA編集技術を使用して、希少疾患の治療法を開発する企業です。特に、遺伝性疾患に対する治療法の研究に注力しています。
AATD(アルファ1アンチトリプシン欠乏症)に対する治療「WVE-006」を開発中です。「WVE-006」は、RNA編集技術を使用してAATDの根本的な問題を解決しようとしています。RNAを標的にすることで、遺伝子のエラーを修正し、正常なAATの生成を促すアプローチです。
RNA編集を用いることで、変異の影響を受けたmRNAの修正を行い、AATの正常な産生を促進することを目指しています。現在、アルファ1アンチトリプシン欠乏症(AATD)患者を対象とした第1b/2a相試験 (単回投与と多回投与を含むオープンラベル試験) の効果が2024年の第4四半期に発表予定です。
COMPASS Pathways (CMPS)
COMPASS Pathways ($CMPS) は、治療抵抗性うつ病(TRD)の治療薬として合成サイロシビン製剤である「COMP360」の開発を進めています。
TRD患者を対象とした第2b相試験では、臨床的に有意なうつ症状の改善が示され、COMP360が治療オプションとしての可能性があることが示されました。
今後のカタリストとして、フェーズ3(COMP005)のトップラインデータは2024年第4四半期に発表される予定です。市場では、TRD適応承認の可能性に注目が集まっています。
第3相試験の結果が第2b相試験の結果と一致する場合には、「COMP360」は治療法が限られているTRD患者にとって画期的な治療薬となる可能性があります。
これらの試験デザインと結果は、うつ病の迅速かつ持続的な緩和に対するCOMP360の潜在的可能性を浮き彫りにし、拡大するサイケデリクスベースの治療分野における有望な候補薬として位置づけられます。
治療抵抗性うつ病は依然として難しい適応症であり、未だ満たされていない医療ニーズが大きく、成功すれば大きな潜在市場が生まれます。
GH Research (GHRS)
GH Research の「GH001」は、治療抵抗性うつ病(TRD)の治療を目的として開発された、メブフォテニン(5-MeO-DMT)の新規吸入製剤です。メブフォテニン(5-MeO-DMT)は、強烈で短時間しか持続しないサイケデリック体験をもたらすことで知られる強力な幻覚剤であり、TRDの即効性治療薬として理想的である可能性があります。
「GH001」は肺吸入により投与され、迅速な吸収と治療効果の発現が可能。2件のフェーズ1試験(安全性および用量の最適化)。TRD患者を対象としたフェーズ1/2試験では、有望な有効性と安全性の兆候が示されました。
現在TRDを対象とした二重盲検フェーズ2b試験が進行中で、2024年第4四半期または2025年第1四半期に予定。第2b相試験の結果がこれまでの試験の安全性と有効性のシグナルを反映するものであれば、「GH001」はTRD患者にとって選択肢が限られている中で、新規かつ即効性のある治療オプションを提供できるかもしれない。
CervoMed (CRVO)
CervoMed は、加齢に伴う神経疾患の治療法開発に重点的に取り組む臨床段階の企業。同社は現在、経口投与可能な低分子の脳移行性薬剤である「Neflamapimod (ネフラマピモド / VX-745)」の開発に取り組んでいます。
ネフラマピモドは、p38マイトジェン活性化プロテインキナーゼαを阻害する薬剤です。ネフラマピモドは、DLBやその他の主要な神経疾患の原因となる神経変性過程の可逆的な側面であるシナプス機能障害の治療に効果を発揮する可能性があります。
ネフラマピモドは現在、早期DLB患者を対象とした第2b相試験中で、24年12月にトップラインデータが発表される予定です。