2023年5月19日に公開された記事、「BofA、AIはドットコム時代を髣髴とさせる “ベビーバブル” にあり、一歩間違えれば ChatGPT で火がついた投資熱は簡単に吹き飛んでしまうと語る」という記事が話題を集めていますので、今一度バブルについて想いを馳せてみたいと思います。
There's a bubble forming in tech and AI-related stocks, albeit a "baby bubble:" BofA's Michael Hartnett. The biggest “pain trade” in the next 12 months is the Fed funds rate rising to 6% instead of falling to 3%, he said. https://t.co/udfM36jUbw
— Lisa Abramowicz (@lisaabramowicz1) May 19, 2023
“ベビーバブル” とはいえ、ハイテク・AI関連銘柄にバブルが形成されている。BofA のマイケル・ハートネットが、今後12カ月で最大の「痛みトレード」は、FRBファンドレートが3%に低下する代わりに6%に上昇することだという。
バブルとは?
バブルは、経済の一部が過度に評価され、後にその価値が急速に減少する現象を指します。これはしばしば投資の過熱、あるいは過度なスペキュレーションによって引き起こされます。その結果、バブルが「破裂」すると、経済は深刻な後退期に突入する可能性があります。
日本のバブル経済はその典型的な例で、1980年代後半から1990年初頭にかけての日本の不動産と株式市場のバブルは、その後の「失われた10年」を引き起こしました。
バブルについては、多くの本が出ていますが、英国の金融史家で作家のエドワード・チャンセラー氏の著書『バブルの歴史 ──最後に来た者は悪魔の餌食 (Devil Take the Hindmost)』をまずは読んでみるのが良いかもしれません。チェンセラー氏は、2022年に新書『The Price of Time』という著書を出版しており、本書では、金利と、経済における資本、労働、資源の時間的配分を評価し、方向付ける上で不可欠な役割について、実に見事な哲学的探求を行っています。
こちらもかなり面白いので早く日本版が出版されることを祈ります。ちなみに、エドワード・チャンセラー氏は中国の不動産バブルを “人類史上最大の不動産バブル” と指摘しており、
ここ10年で、最も大規模なバブルを評価額と規模の両方で測れば、人類史上最大の不動産バブルであることは間違いないでしょう。3、4年前のデータですが、中国の不動産の評価額はGDPの約3.5倍で、これは日本が89、90年に達成したレベルですが、中国は明らかにもっと大きな国で、何千万もの空き物件があり、それらは本当に投機目的で使用されていました。
そしてこの10年間で、中国企業は世界の総クレジット増加額の半分を占めていたのではないでしょうか。これは驚異的なレベルです。また、中国の非金融機関の負債総額は、GDPの100%に達していたと思います。つまり、非常に歪んだ、腐敗した経済のように見えるのです。私は、この問題の根底には、中国の権力者たちが決してそれを受け入れてこなかったことがあると主張しています。経済活動が自由化され、自由な市場が運営されるべきだと、いつまで経っても認めていないのです。
と警告しています。チャンセラー氏は、「バブル」を単なる高値の資産としてではなく、一種の信用詐欺のようなものと捉えている。彼は著書でその例をいくつも挙げている。バブルは、現代では間違いなく新興企業(「ユニコーン」)や暗号通貨の間に蔓延しており、最終目的を明らかにしないまま株式を公開する企業など、さまざまな形で現れています。
バブルが崩壊し、市場が暴落すると、バブルを経験した人たちの反発は大きい。このことは、チャンセラー氏がバブルを、投資家に惑わされて特定の資産を過大評価し、しばしば真の価値が明らかになったときに壊滅的な結果をもたらす、金融史の中で繰り返される現象であると見ている。
そして今、新たなバブルが形成されつつあり、既に “ベビーバブル”、バブルの赤ちゃんとして AI (人工知能) の領域でこれが起こっています。
ChatGPT が登場する前は、GAFA、FAANGs はもうオワコン、次の相場のテーマを探さなければいけない、というような憶測も流れていました。しかし、2022年11月30日に突如として公開された ChatGPT の登場によりゲームチャンジャーとなり、低迷していた NVIDIA と Microsoft に資金が大挙しています。
この始まったばかりの AI バブルは、世界の経済状況を考慮すると、ベネズエラの経済学者カルロタ・ペレス氏の著書『技術革命と金融資本:バブルと黄金時代の力学』で説明しているように、技術革命が起こる際の典型的なパターンの「導入期」におけるバブルではないか思う。
バブルは、常に金融緩和によって始まり、金利引き上げによって終わる
バブルは、インターネットのような「正しいもの」であれ、住宅のような「間違ったもの」であれ、常に金融緩和によって始まり、金利引き上げによって終わると – ハートネット
このハートネットの発言は、経済バブルの形成とその破裂に関する一般的な観察を示しています。バブルはしばしば金融緩和、つまり低金利や易しい借入条件などによる資金供給の増加によって引き起こされます。これにより、投資が増え、資産価格が上昇し、結果的にバブルが形成されます。
一方、金利の引き上げはしばしばバブルの破裂を引き起こします。金利が上昇すると、借入が困難になり、資金供給が減少します。これにより、資産価格が下落し、バブルが破裂する可能性があります。
この観察は、インターネットバブルや住宅バブルなど、過去の多くのバブルに当てはまります。それぞれのバブルは特定の資産 (インターネット企業の株式や住宅など) に集中しており、その資産が「正しいもの」であったか「間違ったもの」であったかは、後の視点から判断されます。
しかし、重要なことは、バブルの形成とその破裂は、資産の種類やそれが「正しい」か「間違っている」かとは無関係に、金融政策と市場の動きによって大きく影響を受けるということです。したがって、経済の安定と成長を維持するためには、金融政策の適切な管理と、市場の適切な規制と監督が必要となります。
FRBは政策エラーを起こすか?
BofA のマイケル・ハートネットは、具体的には、6月14日のFRBの会合で利上げを一時停止する可能性があるとの見方を示しています。もしFRBが利上げを一時停止すると、それは政策上の誤りであり、その後に利上げを再開することでAIのバブルが弾ける可能性があると述べています。
ハートネット氏が指摘したように、FRBの政策決定がこのバブルの将来を左右する可能性があります。現在の情報では、FRBが利上げを続けるかどうか、6月14日のFRBの会合の結果を待つ必要があります。
次のタイムリミット
ブルームバーグのリサ・アブラモヴィッチ氏の引用によると、ハートネット氏は今後12ヶ月という時間軸を示しており、ある優れたバリュー投資家は、6ヶ月〜9ヶ月くらいの範囲で市場の修正が入ることを予想しています。
著名な投資家であるスタンレー・ドラッケンミラー氏も、5月上旬に行われた Sohn Investment Conference 2023 で、経済の先行きについて、
旅行、レストラン、そういったものはかなり堅調です。しかし、その他の分野では、トラック運送業は、私の会社では6~8ヶ月先の経済予測をする際の指針となっていますが、非常に弱い状況です。小売業からは悪い噂が聞こえてきますし、もちろん銀行の問題もあります。
と時間軸を示しつつ、「最悪の経済結果は資産バブルの後に起こる傾向がある」と述べています。
私は何年も前から、最悪の経済結果は資産バブルの後に起こる傾向があるということを述べてきました。ただし、それは過去100年ほどの間に限った話です。エドワード・チャンセラーの著書は、500年以上にわたってこの現象が続いてきたことを、まさに力作として描いています。500年前から金利が2%以下になるたびに、一般的に困難な経済状況が続いてきたのです。
1つ目は、最悪の経済結果は、あまりにも簡単に作られた資産バブルの後に続く傾向があること、
2つ目は、私の仕事における大きな格言は、FRBと戦ってはいけないということです。
これである程度の時間軸を図ることができるかもしれません。
バブルは二度跳ねるのか?
上記は NVIDIA と Microsoft のチャートである。共に2021年の高値に迫っている。
バブルが二度跳ねるという概念は、一部の経済学者や投資家によって提唱されています。これは、一度目のバブルが弾けた後に一時的な回復 (デッドキャットバウンス) があり、その後に二度目のバブル (そしてその崩壊) が起こるというパターンを指しています。
市場はしばしば期待を超えて「最後の跳ね上げ」を見せることがあります。これは市場の参加者が市場の動向について楽観的になり、その結果として価格が基礎的な価値を大幅に超えることがあります。これが「バブル」の形成を助け、そして最終的にはその「バブル」が崩壊する原因となります。
この「最後の跳ね上げ」は、多くの場合、市場の参加者が過度に楽観的になり、市場が「無敵」であるかのように感じるときに起こります。しかし、この時点での価格上昇はしばしば持続不可能で、それが市場の修正を引き起こす可能性があります。
そんなことを知らなかった筆者は、まさか ChatGPT の登場で AI 関連銘柄がここまで急騰するとは予想できず、早めに半導体指数をショートして、軽く火傷をおったのでした。
市場が「黄昏の時」
市場の多くの参加者が利益を追求し、その結果として価格が上昇します。そしてその動きが一定のポイント (あるいはバブル) に達したとき、市場は自己補正の過程を経験することがあります。これは過去のバブル (例えば、2000年のドットコムバブルや2008年の住宅バブル) で見られたパターンです。
更に PER (株価収益率) や PSR (株価売上高倍率) などの財務指標だけでなく、市場の心理的な側面や参加者の行動も重要な役割を果たします。市場が「自分自身の重さを支えられなくなる」時点、つまり参加者の過度な期待や投機的な行動が市場の基礎的な価値を超えてしまったときに、修正 (バブルの崩壊) が起こります。
伝説の投資家ジョージ・ソロスは、市場が「黄昏の時」、つまり変化の瀬戸際にあるときに最も利益を上げるチャンスがあると述べています。これは市場が不安定で変化が速いときに、投資家が市場の動向を正確に読み取ることができれば、大きな利益を得ることができるという意味です。
だからこそ、ソロスの右腕と言われたドラッケンミラー氏もそれを感じとり、NVIDIA と Microsoft をロングしているのだと思います。私たちは、2020年のコロナで始まった金融相場から、ハイテクバブル、SPACバブル、NFTバブル、STEPNバブル、メタバースバブル、仮想通貨バブルと矢継ぎ早に経験しています。予定ではここに AI (人工知能) も加わることになるのですが、どうなることでしょうか?
バブルを連呼していると、慶應義塾大学准教授小幡績氏の著書『アフターバブル』を思い起こします。本書は全てがバブルであるとう概念を説明していると思うのだが、投資家にはそのような視点が必要である。
このバブルは本物か?
スタンリー・ドラッケンミラー氏は、2023年6月7日に行われた Bloomberg Invest 会議で、ロングしている NVIDIA について次のように述べている。
AIはインターネットと同様に革新的な存在になる可能性がある。AIに関して正しい予測をしているのであれば、私は Nvidia 株を2〜3年、もしくはそれ以上所有するかもしれない。
レイ・ダリオ氏も同イベントで、AIについて次のように語っています。
私は非常に興奮しています。これは、インターネット革命よりも大きな革命だと思うのです。しかし、テクノロジーと同じように、それは本当に依存する問題はテクノロジーにあるのではなく、そのテクノロジーを使う人々にある。
その技術が人類の生活水準を上げるために使われるのか、それとも戦争に使われるのか、ある意味、お互いを傷つけるために使われるのか。しかし、その5つを取れば、私たちはタイムワープすることになります。
これからの5年〜10年は、タイムワープをするようなものです。私たちは反対側に出てきて、非常に完全に異なる世界を目にすることになるでしょう。
私が最も注目したいのは、著書『The Price of Time』が 2023 Hayek Awards を受賞した、バブルについての著書で知られるイギリスの作家/金融評論家エドワード・チャンセラー氏の言葉です。
私は投機的なバブルについて多くの研究をしてきましたが、バブルの初期段階を笑うことはできても、後の段階で技術が復活し、バブルは本当に何がうまくいくか確かめるための実験に過ぎないことがあります。だから、見てみないとわからない。
バブルには永遠に続くものはなく、どこかで弾けるのが世の常ですが、このバブルが本物だった場合、どこまで to the moon するかは見届けなければいけません。
まとめ
投機的なバブルは、新しい技術や産業が生まれる際にしばしば見られる現象です。これらのバブルは、新しい技術や産業に対する過度な期待や過剰な投資によって引き起こされます。例えば、19世紀の鉄道バブル、1920年代の自動車やラジオのバブル、そして1990年代〜2000年代初頭のインターネット/ハイテク・バブルなどがあります。
これらのバブルは、新しい技術や産業の可能性に対する過度な楽観主義から生じます。投資家や投機家は、新しい技術や産業がもたらす利益を過大に評価し、その結果、その価値を大幅に上回る価格で投資を行います。しかし、現実には、これらの新しい技術や産業が約束された利益を生み出すことは難しく、バブルは最終的には破裂します。
バブルが破裂すると、投資家や投機家は大きな損失を被ることになります。しかし、一方で、消費者はこの過程で利益を得ることができます。なぜなら、新しい技術やサービスは、バブルが破裂した後でも、しばしばより安価に利用できるようになるからです。つまり、投機的なバブルは、富を投機家から消費者へと移転するメカニズムとも言えます。
しかし、投機的なバブルが必ずしも悪いとは限りません。新しい技術や産業への大量の投資は、その発展を加速させ、社会全体の利益をもたらす可能性があります。また、バブルが破裂した後でも、その新しい技術や産業はしばしば存続し、長期的には価値を生み出すことができます。
投機とバブルについて知りたければ、英の金融史家エドワード・チェンセラーの2つの著書『バブルの歴史 ──最後に来た者は悪魔の餌食』、『The Price of Time』を読んでみて下さい。