『文藝春秋』新年特大号の企画 “続100年後まで読み継ぎたい100冊” 次なる百年の “聖典” より、人気作家の橘玲さんが選んだ7冊をピックアップしてご紹介します。
『文藝春秋』新年特大号「続100年後まで読み継ぎたい100冊」今年はこの7冊を選びました。 pic.twitter.com/dzYTfiETpz
— 橘 玲 (@ak_tch) December 9, 2022
『貨幣発行自由化論』フリードリヒ・ハイエク
オーストリア学派の代表的学者の一人、フリードリヒ・ハイエクによる先見的な1976年の著書『貨幣発行自由化論』です。本書は最近、グローバルマクロ・リサーチ・インスティテュートの記事「ハイエク: 緩やかなインフレが有益であるという幻想」でも取り上げられており、今正に読んでおきたい一冊です。
<内容>
ビットコイン リブラ、中銀デジタル通貨など “暗号通貨” の時代に蘇る、天才ハイエクの「理想の通貨」論。以下は、齊藤誠・名古屋大学教授の解説から――。
こうして書いてくると、勘の鋭い読者は、「あぁ、暗号通貨のことね。FACEBOOK (現META) だって、通貨を発行しようとする時代だからね」といわれるかもしれない。確かに、暗号通貨 (cryptocurrencies) という革新的な金融技術が、ハイエクという天才の頭の中で考えた構想を実現する技術的な基盤を提供する可能性は十分にある。
しかし、ハイエクが「理想の通貨」(これは、ハイエクの言葉ではなく、私の勝手な強調)について突き詰めて考えたことは、ある意味、とても当たり前で、ずいぶんと地味なものであった。そんな通貨は、社会経済にとって大変にありがたいのだけれども、その通貨の発行者にとってそれほど儲かりそうにない代物なのである(もしかすると、持ち出しにさえなるかもしれない)。
それにもかかわらず、私的主体が格好のビジネスチャンスとして独自の暗号通貨を発行しようと競い、主権国家が、国際的な通貨覇権を握ろうと自前の暗号通貨を国際標準にしようと企てるかもしれない。暗号通貨をめぐるさまざまな思惑のために、通貨制度は頑健性を高めるどころか、その脆弱性を強めてしまいかねないのである。
右のような帰結は、「通貨発行における自由な競争によって『理想の通貨』が生み出される」というハイエクの予想と真っ向から反する可能性でもある。それは、ハイエクが間違っていたというわけではない。
ハイエクの構想では、政府の思惑とは独立に通貨制度が実体経済をしっかりと支える仕組みを作り上げることを意図していたが、暗号通貨という金融技術は、通貨制度を実体経済から引き剥がし、仮想空間の最果てへと強引に引き連れていく怖さがあるのである。言い方を換えると、暗号通貨技術は、「理想の通貨」にとって革新的すぎる可能性がある。
『アナーキー・国家・ユートピア』ロバート・ノージック
本書『アナーキー・国家・ユートピア』は、1974年に哲学者ロバート・ノージックにより発表された著作です。1975年にアメリカの National Book Award (哲学・宗教部門) を受賞し、11ヶ国語に翻訳され、イギリスの Times Literary Supplement では「戦後最も影響力のある100冊」(1945-1995)に選ばれています。
ジョン・ロールズによる『正義の理論』(1971年)に対抗し、マイケル・ウォルツァーとの論争の中で、ノージックは「武力、盗難、詐欺、契約の執行などからの保護という狭い機能に限定された」最小国家を支持する議論を展開しています。国家がこれ以上の責任を負うと、権利が侵害されるとノージックは主張します。ノージックは最小国家を支持するために、ロック的な自然状態から最小国家がいかに自然に発生し、この最小国家の閾値を超えた国家権力の拡張がいかに不当であるかを論証している。
『正義論』ジョン・ロールズ
「正義」とは何かを考える際に、その原点となるロールズの「論」とは…… 「ロック、ルソー、カントに代表される社会契約の伝統的理論を一般化し、抽 象化の程度を高めること、私が企ててきたのはこれである。……有力で支配的な伝統をなしてきた功利主義よりも優れている代替案(「公正としての正義」) を、この理論が提供するだろう。
……契約説の伝統に伏在しており、功利主義に取って代わりうる正義観の構造的諸特徴の最重要部分を読者がはっきり理解できるようになり、その正義観をいっそう精緻化しうる理路を本書が指し示すことができるなら、著者である私の野心は余すところなく実現されるだろう。
伝統的な正義観は複数あるが、この正義観こそが、正義/不正義を見分ける私たちのしっかりした判断にいちばん近似しており、デモクラシーの精神と制度を兼備した社会の道徳的基盤として最もふさわしいものとなる。」(初版序文より) ロールズはこう書き起こした。
この本で彼は、「正義の至上性」に関する私たちの直観的な確信(「社会の制度が何はさておき実現すべき価値は、効率性や最大幸福ではなく《正義》にほかならない」!)を、社会倫理や社会科学の理論と丹念に突き合わせる作業を通じて、その妥当性を説明しようと努めている。
『子育ての大誤解』ジュディス・リッチ=ハリス
愛情をこめて抱きしめると、優しい子どもになる。寝る前に本を読み聞かせると、子どもは勉強好きになる。離婚は子どもの学業成績を低下させる。体罰は子どもを攻撃的な性格にする。
これらはすべて間違いだった!育児のしかたが子どもの性格と将来を決定する―多くの親がこの「子育て神話」を頭から信じこみ、“良い親”を演じようと必死になっている。だが、この子育て神話は、実は学者たちのずさんで恣意的な学説から生まれた、まったく根拠のないものなのだ。
古今東西の愉快なエピソードをまじえつつ、心理学・人類学・霊長類学・遺伝学などの最新研究を駆使して、子どもの性格形成の本質に迫る革命的育児論。
『抑圧された記憶の神話』E・F・ロフタス、K・ケッチャム
人は、自己を脅かすような強烈なトラウマを体験すると、生きていくためにその記憶を無意識へと追いやってしまうという。それが「抑圧された記憶」である。しかし、実際にはなかった「性的虐待」「トラウマ」の記憶が暗示や誘導によって作られ、その「記憶」にもとづいて、虐待のかどで親が訴えられ、家庭崩壊の悲劇が起こっているとしたら・・・。本書は、記憶の不思議さと恐ろしさが胸に迫るノンフィクションである。
『コインロッカー・ベイビーズ』村上龍
1972年夏、キクとハシはコインロッカーで生まれた。母親を探して九州の孤島から消えたハシを追い、東京へとやって来たキクは、鰐のガリバーと暮らすアネモネに出会う。キクは小笠原の深海に眠るダチュラの力で街を破壊し、絶対の解放を希求する。毒薬のようで清々(すがすが)しい衝撃の現代文学の傑作。
『AKIRA』大友克洋
第3次世界大戦から38年、世界は新たな繁栄をむかえつつあった――。ネオ東京を舞台に繰り広げられる本格SFアクションコミックの金字塔!