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臨床バイオにおける「公募増資」と「ワラント付き公募増資」の違いとは?

臨床バイオにおける「公募増資」と「ワラント付き公募増資」の違いとは?

今回は臨床バイオ投資における「公募増資」と「ワラント付き公募増資」の違いについて詳しく解説します。

臨床段階のバイオ企業などが資金調達を行う際には、大きく分けて「通常の公募増資(新株発行による公募)」と「ワラント(新株予約権)付き公募増資」の2種類の方法があります。

後者のワラント付きの公募増資はしばしば市場からネガティブに捉えられがちです。なぜ「ワラント付き公募」は悪材料視されやすいのか、その理由には次のようなことがあります。

ワラント(新株予約権)とは?

ワラント(新株予約権)とは、投資家が将来あらかじめ決められた価格(行使価格)で追加の株式を購入できる権利を有することです。

通常の新株発行に “オプション” 的な権利を付与することで、投資家にとっては「株価が上がったらワラントを行使して安く追加株を手に入れられる」メリットがあります。

通常の公募増資とワラント付き公募増資の違い

・通常の公募増資
– シンプルに新株を発行・売り出すだけ
– 企業側は出資者に株を渡し、現金を受け取る
– 投資家に追加的なオプション(行使権)は付いていない

・ワラント付き公募増資
– 新株発行にプラスして、将来的に一定価格で株を買える“ワラント”をセットで発行
– 投資家は「株+新株予約権」の両方を手に入れる
– 株価が行使価格以上になった場合、ワラントを行使することで“追加発行株”が増える

結果として企業の潜在的な希薄化(dilution)が大きくなりやすい。

なぜ「ワラント付き公募」は嫌われるのか?

・株式の希薄化リスクが一層大きい

通常の公募増資でも株数が増えるため、既存株主にとっては株価に下押し圧力がかかりやすいですが、ワラント付きはさらに潜在的な追加株が将来発行される可能性があるため、総合的な希薄化がより深刻になるリスクがあります。

通常の公募増資では、発行タイミングで希薄化が固定化されます。一方で、ワラント付き公募は、公募時点で一定数が発行される(まず希薄化が起こる)さらに将来、投資家がワラント(新株予約権)を行使すると追加株発行が行われます。

株価が行使価格を上回ると高い確率で行使されるため、既存株主は一段と大きい希薄化を覚悟せねばなりません。

・企業側が「甘い条件」を提示する必要がある

ワラント付き公募は、投資家を呼び込むために企業が行使価格や条件を魅力的に設定するケースが多いです。裏を返せば、企業側が資金調達を急いでいて投資家に甘い条件を提示するということです。

市場では「この企業は資本コストが高い調達をしなければいけないほど資金繰りが苦しいのでは?」と受け止められるリスクがあり、現実的に資金難から行われるのが通常です。

また、投資家が「最初の株価下落リスクをワラント(将来のリターン)で補填する」という構図になるため、企業は今後さらに追加で株式を発行して投資家に渡す覚悟を強いられます。これが既存株主にとってネガティブに働きがちです。

・株価が下落しやすい(短期的な売り圧力)

ワラント付き公募では、投資家側が「最初からオプション(ワラント)を手にしている」ため、短期的に現物株を売るインセンティブが働く場合があります。

手に入れた株をすぐ売却して資金を回収し、あとはワラントの行使機会を待つ。これにより発行直後の市場には追加の売り圧力がかかり、株価が下振れしやすいです。

公募価格が既存株価よりもかなりディスカウントされるケースもあり、一層、下落圧力につながることが多いのです。

臨床バイオ企業に公募が多い理由

臨床バイオ企業は治験や研究開発(R&D)に継続的な多額の資金が必要で、しばしばキャッシュフローが赤字状態となります。まだ製品化に至っていない段階のバイオ企業ほど、株主への “甘い条件” を用意しないと資金が集まりにくい現実があります。

そのため、ワラント付き公募を選択するケースが相対的に多くなる傾向があります。また公募を出すタイミングも上手く練られており、良いデータのニュースを出した後で、公募増資のニュースを出すケースが鉄板です。

公募増資、ワラント付き公募増資の実例

この記事を書いている2024年12月中旬には、例えば Protara Therapeutics (TARA) が12月5日に「NMIBC患者を対象としたTARA-002の第2相ADVANCED-2試験の良好な結果を発表」した4日後の12月9日に、TARA-002の臨床開発およびその他の臨床プログラムの開発に充当するための公募増資をアナウンスしました。

その後に公募価格の「1株 $6.25」が発表されました。Protara はキャッシュはまだあったと思いますが、経営陣が良いデータを発表した後にタイミングを見計らって、ここで念の為に増資しておこうと判断したのだと思います。

つまり良いデータを発表した後に、Protara は10ドルまで急騰しましたが、初期臨床のバイオ企業において大体良いデータを発表した後に公募が待っていると分かっている投資家は、高値で手を出さずに公募後に買うのがセオリーになっています。

この記事を書いています、12月18日現在、Protara の株価は5.62ドルになっており、公募価格を下回っています。大体がこんなもので、後期臨床であれば公募価格を上回って取引されるケースもあります。

そのため焦らずに、公募を待って株価が落ち着いてから買い出動しても遅くないです。

一方で、明かな資金難で、必ず公募をぶつけてくると見られていたバイオ企業 Reviva Pharmaceuticals (RVPH) もあります。同社は12月16日の市場前に「統合失調症におけるブリラロキサジンを評価する第 3 相 RECOVER 試験の長期非盲検延長部分のポジティブなトップライン速報データを発表」しました。

そして市場が引けた後に、1株1.5ドルのワラント付き公募増資を発表し大きく下落しました。データ発表時の引け後の株価は2.3ドルでしたが、公募価格は更に下値で設定されており、この場合ほぼ公募価格を下回って取引されます。