今回の記事では、臨床バイオ投資の不確実性について最近の市場での出来事を取り上げてご紹介します。物事、私たちが生きているこの世界は不確実性に溢れています。この記事では臨床バイオ市場をクローズアップし、投資家はどのような不確実性と付き合う必要があるのか?についてご紹介します。
カタリスト予定よりも前に臨床失敗が発表される …
Fulcrum Therapeutics (フルクラム・セラピューティクス / FULC) は、2024年10月に肩甲上腕筋ジストロフィー(FSHD)を対象とした「losmapimod (ロスマピモド)」の第3相REACH臨床試験のトップラインデータを発表する予定でした。
しかしこのカタリストとなる発表よりも大分前の9月に突如「losmapimod」の今後の開発を一時中断を発表し、その日株価は70%の大幅下落となりました。
通常バイオ投資家は、株価を上下させるカタリスト = 臨床試験のデータ発表などに合わせてその銘柄をできるだけ安く仕込み、カタリスト前に利確したり、更に勝負に出るなどするものですが、このケースではこのような常套手段が通用せず、フェーズ3のために仕込んでいた投資家はこの突然の臨床失敗に大きな打撃を受けました。
このように臨床バイオ企業は、現在開発中のパイプラインの試験データをいつ頃発表する、○月◯日に発表予定、のように日付を出していますが、失敗の日付は出してくれませんので、地味にこのような突然の失敗、中止、中断を告げられることがあることを頭の片隅に入れておくべきでしょう。
Fulcrum Therapeutics の「losmapimod」については、バイオファンドの RA Capital も注目したポジション、Ph3 前の動きを見せていたので、もし個人がバイオファンドの動向を深読みし、一発勝負やリスクの多い大きなポジションを持っていたら、大火傷したかもしれません。
臨床バイオ投資の投資家は買収を求めている
Kura Oncology (クラ・オンコロジー / KURA) は2024年11月、急性白血病を対象とした「ジフトメニブ」の開発および商業化に向けたグローバルな戦略的提携を日本の協和キリンと結んだことを発表した後に、株価が-19%下落しました。
実に不可解な出来事で、投資家は発表されたディールが “買収” ではなく “提携” だったことに落胆し下落に繋がったという。この出来事も臨床バイオ投資の面白い、不思議なところです。
というのも臨床段階のバイオ企業は、商品がないため売り上げがありません。そのためハイテク企業と違い、売り上げや決算で買い進めることができません。もちろんパイプラインの開発を続けるために資金 (キャッシュ) は非常に重要で、開発を進める段階で資金が枯渇すると、株価は1ドルを切り、meme 株と呼ばれる状態になり、公募もできなくなると株式併合しか手段がなくなります。
では、どのような評価で臨床バイオ企業の株価が形成されるのか?と言えば、パイプラインの進行具合、開発薬の市場規模などになり、正に市場環境、市場参加者 (個人、ファンドなど) の思想、心理、期待が株価に反映されます。
話を戻すと、Kura Oncology は協和キリンとの提携で、3億3,000万ドルの契約一時金と最大12億ドルのマイルストンを受領しますが、そのことよりも “買収” が無かったことに投資家が反応したというのは面白い話です。
IPO 後、早期の失敗
2024年9月26日に IPO したばかりの BioAge Labs (バイオエイジ・ラボ / BIOA) は、12月6日の市場後に、肥満症を対象とした主要パイプラインである「Azelaprag(BGE-105)」とティルゼパチドの併用療法を評価する STRIDES 第2相臨床試験の中止を発表しました。
– BioAge Labs、肥満症を対象としたアゼラプラグとティルゼパチドの併用療法を評価する STRIDES 第 2 相臨床試験の中止を発表
PO して間もない臨床段階のバイオ企業が主要パイプラインの臨床試験を中止するのは稀なケースです。中止の原因とされるのが、肝機能検査(LFT)の異常が原因です。
LFT関連の有害事象は本来、IPO(上場)前、もしくはプレクリニカルやIND申請段階で検出されるべきものでした。これがIPO後に発覚したことから、プレクリニカル試験では症例数が少なく、問題が表面化しなかった可能性が高いです。
主要パイプライン「Azelaprag」の中止を受けて、同社はサブ的なパイプライン「NLRP3」に軸足を変えることが余儀なくされるでしょう。しかし「NLRP3」の開発はプレクリニカル段階となります。
これは、臨床試験を開始するための準備段階となり、治験薬届(IND: Investigational New Drug Application)の提出に必要なデータを収集し、治験を行うための許可を得る段階です。
これでは短期的な株価の上昇材料が乏しく、アフターマーケットで-67%以上の下落となりました。臨床バイオ企業が新薬開発を目指して IPO することは非常にめでたいことですが、IPO 後すぐに臨床試験が中止に追い込まれることは、投資家としてはたまったものではないでしょう。
しかしこのような事が起こるのも、臨床バイオ投資の世界の不確実性の一つと言えます。
まとめ
この記事で臨床バイオ投資の不確実な出来事3例を見てきたように、臨床バイオ投資とはハイリスク・ハイリターンな世界です。一度臨床バイオ投資で成功したからといって、次も上手くいくとは限らない不確実性に溢れる世界です。
この世界で、巨大なバイオファンドの一部は素晴らしい成績を納めていますが、そこにはファンドだからこそできるテールイベントを駆使し、失敗した投資があっても、中には成功した投資があるからこ負債を補う程のパフォーマンスを手に入れることができます。
しかし一般的な個人投資家が、この臨床バイオ投資で生き残るには、個人投資家 = 手漕ぎボートならではな戦略を採用することで、パフォーマンスを上げることができると思います。
例えば、臨床バイオ投資のライフサイクル投資を採用し、カタリストに合わせて戦略を組みことなどです。