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臨床バイオ投資のリスクを知ろう

臨床バイオ投資のリスクを知ろう

今回は、臨床バイオ投資がいかにハイリスクであるかを、実際の臨床バイオ銘柄の暴落・大暴落の背景を通じてご紹介したいと思います。本記事では、2024年に起きた臨床バイオ銘柄の暴落事案をピックアップしています。

Syros、SELECT-AML-1第2相臨床試験の登録を中止による暴落

Syros Pharmaceuticals (SYRS) は、2024年8月12日のアフターで、急性骨髄性白血病(AML)に関する最新のアップデートを発表しました。

これは、急性骨髄性白血病(AML)と診断され、RARA遺伝子が過剰発現している不適応患者を対象にした、タミバロテン+ベネトクラックス+アザシチジンの3剤併用レジメンを試験するSELECT-AML-1第2相臨床試験の登録を中止という発表でした。

このニュースを受けて Syros の株価は -68% の大暴落を記録しています。今回のリスクはどこにあったのか?というと、小規模試験から大規模試験への移行に伴うリスクです。

小規模試験から大規模試験への移行に伴うリスク

「N」は臨床試験における被験者数を指します。メッセージでは、被験者数が少ない段階(低N)から、より多くの被験者を対象とした段階(高N)に移行する際のリスクについて言及しています。具体的には、昨年12月に19名の患者を対象とした試験から、今回51名に拡大した際に問題が発生したということです。

このリスクは、少人数の試験では良好に見えた結果が、大規模試験では再現されないことがある点にあります。臨床試験が進むにつれて、新たな安全性の問題や効果のばらつきが明らかになることがあり、これが投資家にとって大きなリスクとなります。

ファンドのポジション

Syros Pharmaceuticals は今年に入って Point72、ADAGE、Blue Owl、先日も Invus などのファンドが新規ポジションを取っており、ファンドの挙動だけ見ると有望に見えました。

考察

Syros 暴落の教訓としては、臨床バイオ特有のハイリスクな一面が露呈した形になりました。このようなリスクをヘッジするには、バイナリーイベント前にポジションを閉じるなど、前期臨床の臨床バイオはスイングしてもロングしないに尽きると思います。

バイオ投資家の目線

私は Syros をバイオファンドの取引を見てスイング目的でロングしていました。しかしあまり上手くいかず、とんとんまで株価を戻した所で利確していました。Syros のケースは決算ガチャのような 2/1 的な確率だったかと思います。

小規模試験から大規模試験への移行に伴うリスクもありますが、 24年に一部のバイオファンドや複数の機関が買い増しをしているのを見ると、そういった動向を後ろ盾に買い向かうこともできたと思います。

しかし1第2相臨床試験の登録中止というのは、予期せぬ結果ですので、このようなリスクをヘッジするには、前期臨床のバイオを買わないこと、またはスイングしてもロングし続けないことに限ると思います。

Y-mAbs、市販薬の低成長と決算ミス

2024年8月12日の市場前に Y-mAbs Therapeutics (YMAB) は決算を発表する予定になっていました。プレマーケットでは決算期待からかかなり上昇しましたが、決算が発表されるとマイ転。最終的には決算前の終値から -22% 下落しました。

主力製品「Danyelza」の低成長

Y-mAbs Therapeutics は、市販薬である主力製品、神経芽細胞腫などの小児がん治療に使用される抗体薬「Danyelza」と、SADA(Self-assembling DisAntibody)技術が期待されている臨床段階のパイプラインを持っています。

期待されているSADAプラットフォームのデータ不足

今回の下落の原因は、決算ミスと、主力製品である「Danyelza」の売上げが前年同期比10%増と、低成長であること、期待されているSADAプラットフォームの新たなデータがなかったことに起因したものだと思います。

バイオ投資家の目線

私はこの銘柄を買収期待で12ドルぐらいでロングしています。今回の下落は決算ミス、主要製品の低成長にあることを理解し、ロングを続けています。しかし、10ドルを割って最終的に8.41ドルまで下げるとは予想外でした。

相場が悪い時期というのもありましたが、相場が持ち直せばネガティブな要素も緩和され、ニュースによっては持ち直す可能性があるのではないか?と考えています。臨床バイオをロングしている投資家は、何が原因で下げているのか?という下げの本質を理解する必要があります。

Elevation、EO-3021の第1相臨床試験の初期データの期待外れ

Elevation Oncology (ELEV) は、2024年8月6日に、クラウディン18.2を発現している可能性の高い切除不能または転移性の進行性固形がん患者を対象としたEO-3021を評価する第1相臨床試験の有望な初期データを発表しました。

Elevation のプレスリリースでは “有望な初期データ” となっていますが、投資家は初期データの42.8%の客観的奏効率 (ORR) が期待外れであることに反応し、-63% の大暴落となりました。

42.8%の確認された客観的奏効率(ORR)

Claudin 18.2 が高発現している胃がんおよび胃食道接合部がんの患者において、42.8%の客観的奏効率 (ORR) が確認されました。ただし、この奏効率が市場の期待に応えるほどの強いデータではない可能性があり、そのために株価が下落したと考えられます。

ORR(客観的奏効率)とは?

ORR(Objective Response Rate、客観的奏効率)は、抗がん剤の臨床試験において治療が有効であったと確認された患者の割合を示す指標です。具体的には、次の2つの反応が含まれます。

・完全奏効(CR: Complete Response)
がんの全ての病変が消失し、治療後に新しい病変が見られない状態。

・部分奏効(PR: Partial Response)
がん病変のサイズが50%以上減少した状態。ただし、完全には消失していない。

ORRの計算

ORRは、治療を受けた全患者に対するCRおよびPRを達成した患者の割合で計算されます。例えば、100人の患者のうち20人が部分奏効を示し、5人が完全奏効を示した場合、ORRは25%となります。

ELEV の ORR の評価

Elevation Oncology が発表した「EO-3021」の試験では、Claudin 18.2 を高発現する胃がんおよび胃食道接合部がんの患者におけるORRが42.8%であると報告されました。

42.8%という ORR は、初期の第1相試験としては一定の効果を示しているものの、市場や投資家が期待していたほどの高い奏効率ではなかった可能性があります。特に、投資家はより高い奏効率や有力な競合製品との比較での優位性を期待していたかもしれません。

特定の患者群でのみ効果が確認されている

ORR が高かったのは Claudin 18.2 を高発現している患者群に限られ、他の患者群では効果が見られなかったことが懸念されています。例えば、Claudin 18.2 を20%未満しか発現していない患者群では、ORR は0%でした。これは、薬剤が特定の患者群にしか効果を発揮しない可能性があり、治療の普遍性に欠けると判断されたかもしれません。

試験はまだ第1相段階であり、今後の拡大試験や後続のフェーズでの結果次第では評価が変わる可能性がありますが、現時点ではこのデータに基づいて株価がネガティブに反応したと考えられます。

試験の次のステップ

Elevation Oncology は、2025年の前半に追加のデータを報告する予定ですが、現時点ではこれが株価を回復させる材料として認識されませんでした。投資家は、今後のデータがより強力であることを期待していますが、現時点では売りで反応しています。

考察

今回の Elevation における教訓は、初期臨床 (Elevation はフェーズ1) の株をロングしてはいけない、持ち続けてはいけない、というのに限ると思います。

海外のバイオ投資家の優れた視点としては、”バイオ投資は行間を読め!” と言います。ELEV がデータ遅延に加えて Antibody-Drug Conjugate (ADC) でありながら今年のアメリカ臨床腫瘍学会 (ASCO) に参加しなかったと。つまり経営陣がパイプラインに興奮していない、アクティブじゃなかったと指摘しています。

科学界や投資家コミュニティへの露出や関与が不足していることは、内部的な課題や、経営陣が同社のパイプラインに対してあまり楽観的でないことを意味する場合があり、注意が必要です。

バイオ投資家の目線

私は ELEV を複数のバイオファンドが保有していることを観察し、ロングしていました。しかしまさかの暴落で、データ発表後 -60% くらいになっている寄り付き後に損切りしました。

このような失態を起こさないために一つ確実に言えることは、初期臨床 (ELEV はフェーズ1) に臨床バイオには絶対に手を出さないことです。優れたバイオ投資家は後期臨床のバイオ銘柄しかロングせず、もし初期臨床の銘柄に手を出す時はスイングのみと聞きます。

ELEV に関しては、主要パイプラインである「EO-3021」が完全にダメになったという訳ではなく、キャッシュも2026年までありますので、2025年前期に発表されるという追加データで、何らかの良いデータが出てくると復活する可能性も残されています。

Tempest はペニーストック?

Tempest Therapeutics (TPST) の株価は2023年10月に、大きな変動を経験しました。肝臓がん治療薬候補「TPST-1120」に関する臨床試験のポジティブな結果を受けて、株価は約2,879%の急騰を見せました。

この薬は他のがん治療薬と併用することで、30%の客観的奏効率(ORR)を示し、単独使用の13.3%に比べて優れた効果が確認されました。しかし、その後株価は約35%下落しました。

TPST はペニーストック

この急激な下落は、急騰後の自然な市場調整や、急上昇に伴って利益確定を行う投資家の動きが影響していると考えられます。また、Tempest の株式はマイクロキャップのペニーストックとして取引されていたため、大きなニュースイベント後に見られる特有の激しいボラティリティも一因とされています。

再びの急騰

2024年4月初め、Tempest は再び急騰しました。これは「TPST-1120」の臨床試験結果が良好であったことにあります。この薬剤は肝臓がんの治療薬として開発されており、フェーズ1b/2の臨床試験で、他の2つのがん治療薬(アテゾリズマブとベバシズマブ)と併用した際に、対照群と比較して客観的奏効率および全生存率を改善する結果が得られました。

これらのポジティブな試験結果が投資家の間で大きな関心を呼び、株価の急騰につながりました。また、「TPST-1120」をレジストレーショナルフェーズ3試験に進める計画を発表したことも、同期間中の株価上昇を後押ししました​

ペニーストックの運命、再び下落

急騰下落を繰り返すペニーストックの Tempest は、ポジティブな試験結果とは裏腹に、いくつかの財務的な課題に直面しており、これが最近の株価下落に寄与しています。同社は2024年第2四半期に960万ドルの純損失を報告し、これは前年同期の損失よりも高かったです。

さらに、株式1株当たりの損失(EPS)は-42セントで、アナリストの予想である-40セントを下回りました。これらの財務結果と、特に研究開発および一般管理における運営費用の増加が、投資家の間で懸念を引き起こしています。

また、同社は2024年第2四半期末に現金及び現金同等物が3,110万ドルであったと報告しましたが、これは2023年末の3,920万ドルから減少しています。この現金減少に加えて、報告された収益がないことが、同社に財務圧力を加えています。

バイオ投資家の目線

私はこの銘柄を売り損ないました … Tempest はバイオ投資家の間でペニーストックとしての地位を確立しているのは最近知った次第です。先日まで5ドルだった株がたった数ヶ月で1ドルを割っています。

もし急騰を下落を繰り返すのであれば、次の急騰したタイミングで売りたいと考えていますが、この手の銘柄でキャッシュがないということは、公募するか株式併合するか、最悪倒産するしかないと思います。

それで現在株価を下げているのが現実です。このように臨床バイオをずっとロングしていて良いことはあまりないのです。